非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-11
「いらっしゃいま…せー…」
レジで爽やかに微笑んでいた和馬の声は、現れた客の姿によって、尻すぼみに小さくなっていった。加えて、微笑みも僅かに歪んだ。
「何だよ和馬。その、あからさまに嫌そうな顔は」
聡が用も無くレジに近づき、店員に因縁を付ける。
「だって、聡がこの店に来ると、悪い事が起きる気がしてさ…」
「それは断じて俺の所為じゃ無い」
「それにさ、聡って僕が入ってる時間を狙って来てるとしか思えないんだよね」
「確かに…お前以外のヤツがレジに立ってる所は見たことが無いけどな」
聡がいつ来ても、このコンビニのレジには和馬が立っていた。聡にしてみれば和馬こそ、自分が来るのを見計らっているとしか思えなかった。
「まあ、それはともかく、今日も一緒みたいだね、妃依さん」
和馬は、店内の奥で物色している妃依に視線を向けた。
「ああ」
「こう言ってしまうのは無粋かもしれないけれどさ…同棲でもしてるのかい?」
聡は、余りの言葉にレジカウンターに頭を打ち付けてしまった。
「ばば、馬鹿な事を言うな…!!」
「うーん…そうじゃ無いにしろ、通い詰めてるのは事実だと思うんだけどな…」
こんな時間帯に、しかも夏休み中に、コンビニに来て食材を買っていく二人。誰が見てもそう見えるかもしれない。
「し、しかし、お前らしくないな…人の事情に首を突っ込んでくるとは」
聡は、本題をずらす事にした。核心に触れられたら、自分にも答えようが無かったからだ。
「いや、ゴメン…最近、沙華がうるさくってさ…つい、ね」
聡は、その幼馴染の後輩が、やたら他人の色恋沙汰に目敏い事を思い出した。
「まさか…沙華ちゃんがそんな事を?」
「まさか、と言うか、そのまさかだよ」
「ま、マジか…で、沙華ちゃんは何て?」
嫌な予感とは得てして当たる物だ。聡は経験からそれを学んでいたので、聞くまでも無いとは思ったが、やはり気になるので一応聞いた。