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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-10


「まあ、いいわ。日も傾いてきたし、帰りましょう…聡」
 琴葉が聡の服の裾をくいくいと引っ張った。
「ああ、解ったよ、姉さん…ほら」
 聡は琴葉に背中を貸した。何が言いたいのか位、聞かなくても解る。琴葉は、聡の背に身体を預け、首に手を回した。
 そうして琴葉を背負って、公園を出て暫く歩くと、琴葉はすぅすぅと寝息を立て始めていた。
「…琴葉先輩、どうしたんでしょうか」
 いつもとは違い、今の琴葉はとても無防備な感じがした。
「姉さん、疲れてるとたまーに、こうなるんだよ…はは」
 背負う姉の重みは、昔と殆ど変わっていない。いや、むしろ、軽く感じられた。それだけ自分も成長したという事だろうか。
「…少し、妬けますね」
 妃依はあえて視線を逸らして言った。
「なっ…なに言ってんだよ、ひよちゃん…」
「…だって、琴葉先輩、とても幸せそうな顔してますから」
「あ…ああ、こうやって学校から帰った事もあったからね…多分、安心してるんじゃないかな」
「…学校から…ですか」
「学校って言っても、小学校の頃だよ? ほら、前にも話したけど、姉さん、身体弱かったから」
「…そう、ですか」
 妃依は答えながら、聡の背中で安らかな寝息を立てている琴葉に視線を移した。
「…先輩の背中、気持ち良さそうに見えてきました」
「何? ひよちゃんも背負って欲しい?」
「…いえ、それは…遠慮しておきます」
「どうして?」
「…琴葉先輩に、悪い気がしますから」
 それから、二人は言葉を交わすことなく、ただ、琴葉の静かな寝息を聞きながら、マンションへと向かった。


「ただいまー…」
 愛しの我が家への帰宅。
 聡はとりあえず、背負った姉を部屋に寝かせてきた。
「姉さんは…まあ、晩飯が出来たら勝手に起きて来るだろうな」
「…そうなんですか」
「ああ、姉さん、昔から食欲だけは人一倍だったから」
「…今では食欲以外も人一倍ですけどね」
 本人が聞いたら『それはどういう意味かしら』とでも言いそうな台詞である。
「…じゃあ、私は夕食の準備を…あ」
 キッチンに向かおうとした妃依の足が止まる。
「どしたの? ひよちゃん」
「…そう言えば材料、無いです…」
「そうなの? じゃあ、ヘクセンに言って買って来てもらおうか」
 聡がヘクセンを呼ぼうとしたのを、妃依は聡の服の袖を掴んで止めた。
「え? 何?」
「…買いに行って来ます、私」
「でも…」
「…ヘクセンさんに任せると、何を買ってくるか解らないですし…それに…」
 妃依はそこで一旦言葉を切り、背を向けた。
「それに…?」
「…先輩に、荷物持ちを頼みたいので」
 聡に断る理由は無かった。


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