カオルB-9
「それ、単に入部者がいないからじゃないの?」
上目遣いの眼が須美江を捉える。明らかに穿った見方だ。
しかし、須美江はもっと別の事を考えていた。
「本当かどうかなんて、どうでもいいじゃない。要は薫に、お友達が出来る事の方が大事なんだから」
そう云った須美江は、真面目な顔になった。その瞬間、真由美は何かを感じた。
「そう…じゃあ、ご勝手に」
席を立つ真由美。
「どうした?食事の途中に」
「さすがに疲れたから今日は早めに寝るわ。おやすみなさい」
娘の行動に、晋也は不可解な表情を浮かべた。が、須美江の方は悲しげな眼で、娘の消えた場所を見据えていた。
「は〜あ…」
階下の騒ぎからしばらくした頃、真由美は自室のベッドに寝転がっていた。
(あのお母さんの眼…)
目は一点を捉えているが、網膜には映っていない。頭の中に画かれていたのは、先ほどの母親とのやり取りだ。
(あれは、わたしに何かを訴えかけていた…)
あの眼から大事だとは分かるのだが、それが何によるものかは解らない。それが一層、真由美を思考のスパイラルに誘い込む。
そんな時、ドアのノック音がした。
「お姉ちゃん、起きてる?」
そっと開いたドアの隙間から、薫が姿を現した。
「なあに?」
曖昧な返事する真由美。薫は、恐る々と中に入って来た。
「お姉ちゃん、さっきはどうしたの?」
弟なりに、心配から出た言葉だったが、
「別に、どうもしないわよ」
返事がつい、ぞんざいになってしまう。それより、彼女には確かめたい事があった。
真由美は、ベッドから身を起こして薫を見た。
「そんな事よりも」
「なあに?」
「アンタ、どうしてバレーなんかやる事になったの?」
両親の前では本当の事も云い難いはず。でも、ここなら姉弟だけ、本音も聞けるだろう。
薫は、しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。