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「カオル」
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カオルB-7

(何やってんの!あんな小さな子より遅いなんて)

 須美江が声を挙げそうになる。彼女にも覚えはあるが、さすがに低学年生に負けた事はなかった。
 しかし、親がキツい言葉を放すれば、子供は知らず々に萎縮してしまい、本来のを出せなくなってしまう。だから、一切口出し無用と前もって座間に云われていたのだ。

 座間は、時折、時計に視線を落としながら子供逹の走りを見つめている。距離走ではなく時間走を取り入れてるのは、全員のコンディションを同時に整えられるメリットからだ。

 唯1人の例外を除いては。

 座間が走り込みの終了を告げた時、薫だけが荒い呼吸で床に崩れ落ちてしまった。

「か、薫…」

 心配する須美江。座間は気にした様子も無く「次はストレッチよ!」と号令を送った。
 他の子供逹はテキパキと、次の準備に取りかかる。

「ハァ、ハァ…」

 絶え々の息で周りを見た薫は、なんだか情けなくなった。

(こんな思いして…友達作らなきゃいけないの?)

 半ば強制ともいえる入部。それは、“友達”という存在を得る為と促されたからだ。
 だが、薫自体、その必要性事体がよく解らない。

 気持ちが揺らいでいるところに、島村直樹が近づいて来た。

「ストレッチ、やれよ」

 小さく、ぶっきらぼうな声が背中にかかる。

「島村くん…」

 情けない表情をした同級生に、直樹は小さく笑った。

「あんまり気にしない方がいいよ。最初は、あんなモンだから」
「あ、ありがと…」

 直樹は薫の対面に腰掛けると、足を広げてストレッチを始めた。薫も、直樹を真似て足の筋を伸ばしだす。

 2人の様子を見た座間は、小さく頷いた。





 翌日夕方遅く、真由美が合宿を終えて帰って来た。

「まいった〜!」

 ちょうど夕食を迎えた時刻。解き放たれた心が、溜まっていたものを吐き出した。

「朝7時に叩き起こされて、夜8時まで勉強ばっかやらされた上に、ごはんは不味いし、自由はないし…」

 夕食を囲むテーブルの前で、晋也と須美江は苦笑いを浮かべている。

「それで?勉強だけやってたのよね」
「何よ!それッ」

 どうやら2人は、娘の不満より不祥事の方が心配らしい。

「その口調からすれば、何も無かったんだな。父さん、安心したよ」
「ひとが散々な目に遇って来たのに、素行の心配するって信じられない!」

 つい、キツい言葉を返してしまう真由美だが、過去の行いを考えれば仕方ない事だった。

 その時、やり取りを黙って聞いていた薫が口を挟んだ。


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