カオルB-6
大きな体育館に、カン高いホイッスルが鳴った。
「みんな、集合!」
途端に、散らばっていた子供たちが駆け足で集まり整列する。下は8歳くらいから、上は小学校6年生まで。小学生バレー・クラブの子供たち。
(薫…頑張って)
須美江が片隅で見守る中、薫は、母親より少し若い女性監督、座間のとなりに並んでいた。
「今日は、皆さんに新しい仲間を紹介しますッ」
座間はそう云うと、薫の背中を軽く押して挨拶をするよう促す。
「…あ、あの」
見つめるたくさんの眼。緊張がピークに達する中、
「ふ、藤木…薫です」
薫は、今にも消え入りそうな声を挙げた。
「聞こえないわよ!もう1度ッ」
が、その途端に、座間の厳しい声が飛んだ。
(そんな…初日から、あんなに云わなくったって)
不安気に見守る須美江。彼女も息子同様、スポーツとは縁遠く生きてきたものだから、当たり前である慣わしでさえ異様に感じてしまう。
自分でさえこれなのだから、息子が怖じ気付いて萎縮するのは仕方ないと思った。
しかし、
「ふ、ふじき!か、か、かおるですッ!」
須美江の思いは杞憂に終わったようだ。薫は俯き加減のまま奥歯を噛み、必死の声を腹から吐き出した。
「いいわよ。ちゃんと出来るじゃない」
座間は一転、優しい眼差しを向けた。
「今日は、薫くんに馴染んでもらうために、少しアップを長めにやります」
座間は、チームのキャプテンである嶋村直樹を呼び寄せた。
「何ですか?」
直樹が傍に来た。薫と比べると、ひと回りは体格が良い。
「全体アップがすんだら、薫くんに基本を教えてやって」
座間の指示に、直樹は「分かりました」と答えると、
「薫。行こう」
薫の手を取って、列の中へと連れて行った。
笛の合図と共に、全体アップが始まった。最初は体育館外周の走り込み。高学年生は、かなりのペースで周回を重ねて行くのに対し、低学年生は付いて行けずに遅れだす。
(こんなの…無理だ)
そんな低学年生より、さらに後ろを走っている薫。もちろん、ふざけているわけじゃない。必死だ。