カオルB-5
「自分で決めたの…〇〇高に行くって」
俯き加減の眼は、どこか、思いつめていた。
そんな真由美に、ひとみは問いかける。
「最近…だよね?あんたが、そんな顔するようになったの。どうしたの?」
友人なら当然の思いと分かっているが、
「ひとみ…」
「なあに?」
「いくらあんたでも、教えられない…」
拒否の言葉。
ひとみは、一瞬、驚いたが、すぐに持ち直してニッと白い歯を見せた。
「じゃあ、この話は止めようッ」
そう云うと、携帯で時刻を確認すると、
「消灯まであと30分。せめて、合宿のオフくらい力抜きなよ」
リュックから、何やら取り出して真由美に手渡した。
「何?これ…」
「マンガよ」
「わたし、今そんな気分じゃ…」
「いいから。読みなって」
ひとみに促されてパラパラとめくった真由美。中の絵を見てるうちに顔が赤くなった。
表紙もそうだが、中身はかなり露骨な性描写がある女性誌だったのだ。
初めて見た真由美は、驚きを隠せない。
「あんた…これって…」
「ああそれッ。姉のなの」
答えるひとみは、いたって普通だ。
「わたしも時々読んでるの。面白いよ」
「でも、こんなの読むって…」
「真由美…」
柔らかい声。
「あんたは、何でも頭で考え過ぎよ。試しに、欲求に素直になってみたら?」
何のことはない励まし。
──欲求!
言葉は、真由美の中で大きくなった。
(そうだ…わたしは、薫を…女の子になった薫を…欲しいと感じたんだ…)
昨夜からのわだかまりの理由が、あらぬ観点から解かれた瞬間となった。
だが、それは、彼女が当初から考えている“想い”とは、かけ離れていた。
(…でも、自分の本心が分かっただけでもいいか)
真由美は顔をひとみに向けた。
「ありがとうひとみ。読むね」
そう答えた表情は、晴れやかだった。