「超合体浪速ロボ・ツウテンカイザーU〜オゲラ〜」-8
「私、今まで王鷹さんの事を忘れとった。王鷹さんだけやない、ドームに住んでた色んな人の事を忘れてた。牛みたいな乳のおばちゃん(どうやらスチュワルダのことらしい)にも偉そうなことを言うたんを忘れてた。私らがここで踏ん張れへんかったら、色んな事が、色んな犠牲が無駄になってしまうんやもんなっ!!よっしゃぁあっ!!身を捨ててこそ、浮かぶ瀬もあれ、やっ!!」
次の瞬間、ツウテンカイザーは通天剣を放り投げた。
「ちょっと、ひよこ。一体何考えてるのよぉっ!?剣を投げたら、どうやって戦うって言うのよっ!!」
悲鳴を上げる恭子であったが、ひよこは意に介さず、自信満々の笑みを浮かべた。
「どうするも、こうするも、オゲラを給食のプリンにしたるんやっ!!!!」
剣を捨てたツウテンカイザーにオゲラが殴りかかる。そのオゲラの踏み込みに合わせて、ツウテンカイザーは痛烈なクロスカウンターを見舞った。
『スパンギャースッ!!!』
苦悶の声を上げるオゲラ。しかし、ツウテンカイザーもかなりのダメージを受けている。
「このまま、畳みかけるっ!!」
『ヌォオリャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
雄叫びをあげるツウテンカイザー。オゲラの短い前肢をかいくぐり、続けざまにパンチを繰り出す。
『ホォアタタタッ!アタァッ!!!』
敵に反撃する暇を与えず、何度も何度も拳を叩きつけるツウテンカイザー。しかし、オゲラの強固な装甲には、傷一つ負わすことが出来ない。
「ちょっと、やっぱりオゲラには全然効いていないわよっ!!」
堪りかねて叫ぶ恭子。しかし、ひよこは気にせずオゲラに拳を叩きつける。
「大丈夫やっ!!オゲラの装甲が強固であればあるほどこの戦法は効くんやっ!!」
「でもでも、装甲にはヒビ一つ入っていないよぉっ!!」
ひよこの耳には最早恭子の声は届いていなかった。鬼気迫る様子で何度も何度も、何度も拳を叩きつけるツウテンカイザー。
「オラオラオラオラオラァアアアッ!!!」
「ひよこってば、聞いてるのぉおっ???あ〜ん、もうどうにでもしてぇえ〜っ!!」
いつしか、辺りは完全に日が暮れていた。ツウテンカイザーは、ひよこはへろへろになりながらもまだパンチを繰り出しているが、気が付くといつしかオゲラは動かなくなっていた。
「ひよこ?オゲラ、動かなくなってるよ…」
恐る恐る声を掛ける恭子。ひよこはその言葉にようやく拳を止め、オゲラが動く様子がないか目を凝らして見守った。
「大丈夫……のようやな」
動かないオゲラを見て、ひよこは大きく溜息をついた。
そこへ、十文字博士から通信が入る。
「オゲラの生体反応はとっくに消えている。熱も電位の変化も体液の流れも脳波も臓器の動きも、全て、全く、完全に停止して、とどのつまりオゲラは死んでいる…」
「え、でも、…一体どうして??」
十文字博士の言葉に、恭子は首を傾げた。一体オゲラがどうして死んでしまったのかまるで分からない。今見ても、オゲラの装甲には傷一つ付いていないのだ。
「恭子ちゃんは給食のプリン、ふたを開けずに振り回したことないか?」
「…あっ!?」
十文字博士の言葉に、恭子はようやく得心がいった。
「そや、外殻がいくら強固でも、生体兵器である以上外殻の下には筋肉やら内臓がある。それを外から強烈に揺らしたら、中の肉はとろとろのぐちょぐちょになる、いうわけや…」
説明を聞き、今更ながらにひよこの作戦の無謀ぶりに恭子は呆れ返った。もし、ツウテンカイザーの拳の方が先に砕けてしまったら一体どうするつもりだったのだろう。
「その時は、ツウテンカイザーは勿論、火星の全ドーム都市がオゲラに全滅させられるだけのことやろ?」
事も無げに言い放つひよこ。まさしく、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ…、背水の陣、いや無謀極まりない猪武者と言うべきか…。
『…るー、るー。…生態系に於ける弱肉強食の連鎖は、淘汰と進化の車の両輪』