「超合体浪速ロボ・ツウテンカイザーU〜オゲラ〜」-3
「あれから火星人は攻めてこえへんけど、こんなに緊張感無しでええんかいな?」
司令室で眠りこける十文字博士を見て、ひよこは溜息と共に呟いた。傍らにいる恭子はくすりと笑みを漏らし、持ってきたお盆の上からコーヒーのカップを十文字博士のデスクの上に置く。
「まあ、いいじゃないの。それだけ今が平和だって事なんだから…。あれから火星人もぷっつり攻めてこなくなったけど、このまま何事もなく、ずっと平和だったらいいのに…」
そう言って、ひよこにもコーヒーカップを渡す恭子。
「にしても、緊張感無さ過ぎやわ…。こんな所で眠りこけて、一体どんな夢見とるんやろ?」
一口コーヒーを口に運ぶひよこ。すると、ひよこに返事をしたように、十文字博士が寝言で何事か呟いた。
「……う、ん…、ひ…ひよこ。……ひよこ」
その言葉に、ぎょっと身を引くひよこ。恭子はその博士の言葉に、小さく笑みをこぼした。
「きっと、ひよこの夢でも見ているんだよ。いつも喧嘩していても、なんだかんだ言って、やっぱり娘が可愛いのよ…」
「うわ、恭子。そんな気色悪いこと言わんといて。さぶいぼ立つわ…」
「も〜お、そんなこと言って、ホントは嬉しいくせに…」
しかし、その時。
「ひ、ひよこ…、う、うん…ひよこ、貧乳。…ひよこの貧乳」
「こ、こ、殺すっ!!このおっさん、絶対殺すっ!!!!」
コーヒーカップを握りつぶし、今にも父親を締め殺さんとするひよこ。いつもの事と言えばそれまでだが、たとえ茶飯事であっても恭子は苦笑いしながらひよこをなだめた。
「まあまあ、…寝言なんだから」
「寝言やから余計と質が悪いんやっ!このおっさんの包み隠しのない本心いうことやないかっ!!」
ひよこは恭子に羽交い締めにされながらも、頭から気炎を吹き上げてじたばたと藻掻いた。
そこへ事態をまるで把握していない十文字博士が、寝ぼけ眼を擦りながら開口一番、余計なことをのたまう。
「ふぁああ。おはよう、恭子ちゃん。今日もお乳大きいて、可愛いなぁ…」
「お乳大きいは余計やろがぁっ!!」
次の瞬間、ゲシッという鈍い音がして、十文字博士の後頭部にひよこの硬い拳骨が振り下ろされた。
「痛いっ!何すんねん、このど貧乳っ!!!大きいもん、大きい言うて、何が悪いねんっ!!」
「まだ言うかっ!このデリカシーの欠片もない変態スケベ親父っ!!」
「親に向かって手を上げるとはどういう娘やっ!?このナイペッタンの洗濯い…ぐえっ!!」
どこから持ち出したのか、ひよこはパイプ椅子を十文字博士の頭の上に振り下ろした。
「もっぺん眠らしたろか、このスケベ親父っ!今度は永遠に起きてこんでええさかいにな…」
物騒なことを言いながら、肩で息をするひよこ。恭子はもはや処置無しと肩をすくめた。
そこへ、司令室の扉が静かに開き、見事なプロポーションのブロンド美女が姿を現した。
「私は火星ドーム連合政府科学技術省査察官スチュワルダ。近日中にドーム連合政府から正式な通達があると思うが、此処に持ち込まれた巨大ロボットを撤去し、正式な職員以外は全員退去するよう、要請する」
開口一番、紋切り型に切り出すブロンド美女。しかし突然の要請に、司令室の面々は誰もが話の接ぎ穂を失ってしまい、今まで色々な意味でにぎやかだった司令室は水を打ったように静まり返った。
「この観測所は本来テラフォーミング計画の為のものであり、対火星人の為の前線基地ではない。ましてや、一科学者の私物でもない。政府の所有物に危険な兵器を持ち込んで、好き勝手に施設を使って良い道理はない筈ですっ!」
呆気にとられている職員を見回し、スチュワルダは改めてそう言い放った。剣呑な雰囲気の中、最初に口を開いたのは恭子であった。
「な、何も私達は好き好んで此処を戦いの前線基地にした訳じゃありません。火星人との戦闘に巻き込まれ、否応なく此処に閉じこもったんです…」
スチュワルダは一瞬、恭子のたわわな胸をひと睨みした。冷たい視線にわずかにたじろぐ恭子。
恭子にしてみれば、ツウテンカイザーを放棄して、普通の生活に戻れることは万々歳なのだが、スチュワルダの高圧的な物言いは何となく釈然としなかった。しかし、反論してはみたものの、スチュワルダの威容に思わず萎縮してしまう。
「恭子の言う通りやっ!」
ひよこは旗色の悪くなった恭子を援護しにかかった。
「ドーム連合のお偉いさんはどない考えてるんか知らんけどな、実際火星人を撃退したのは私と恭子とツウテンカイザーなんやッ!ドームの防衛軍なんて、屁の突っ張りにもならんかったやないかっ!!」