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華麗なる逃亡日記
【コメディ その他小説】

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華麗なる逃亡日記 〜A reminiscent talk〜-4

「なら…俺が気を引いて、そのスキに穂沢さんが蹴り倒す」
「さっきと同じじゃない!」
「仕方ないだろ…喧嘩は苦手なんだよ」
「か弱い女の子を守ってあげようとか思わないの!?」
「自分より強いやつを守れって言われてもなぁ…」
 美奈は御幸のあまりのやる気の無さに、文句を言おうとした。
「ちょっと…!」
「あー!てめえはさっきの!」
 だが、抗議の声は誰かの大声に遮られる。
 二人とも、ばっと声のした方を見ると、植込み越しにこちらを見ている男の片割れと目が合う。
 こうなれば逃げるしかないと悟ると、御幸は英断した。空を指差し、
「ああっ!ブタが空を飛んでいるっ!」
「って、引っ掛かるわけないでしょ!」
 美奈は思わず怒鳴り声を出す。
「なに!飛ぶブタだと!?」
 だが、男は間抜けにも引っ掛かると、空を仰ぐ。
 その隙に、御幸は、呆気にとられている美奈を引っ張って、植込みの陰から飛び出す。
「今のうちに逃げよう!」
 そう叫んで、飛び出した勢いを殺さずに走りだす。
 男たちは、なぜか追い掛けてこない。その代わり、後ろの方から「おい逃げたぞ!何やってんだ!」とか「いや、空飛ぶブタを…」などと言い争う声と、次いで、殴り合いのような打撃音まで聞こえてきた。
 だが、それも走るにつれて小さくなっていき、やがて聞こえなくなった。

 やがて、十分に走った事を確認して、やっと立ち止まる。
「ふぅ、ここまで来れば安全だろ」
 一仕事終えた後のような爽やかな笑顔で御幸が言う。それに対して美奈は、この上なく不機嫌そうだ。
「あぁ、絶対に顔覚えられた…これから狙われ続けるんだわ…」
「心配しすぎ。あんな短時間で覚えてるわけないって」
「ううん!こんな可愛い子を忘れるわけないでしょ!」
「…なんですと?」
 美奈は真剣そのものだ。御幸は思わず聞き返してしまう。
「きっと今頃は必死にわたしを探してるんだわ…あぁ、可哀想なわたし!」
 ツッコミどころが満載すぎて、御幸は何も言えない。
「‥‥‥」
「とゆうわけで―」
 美奈は御幸の態度などお構いなしに、表情を一変させ、真顔に戻って言う。
「今から、さっきの人達のところ戻ろ」
「‥‥‥‥‥え?」
 御幸は何を言われたかを理解できていないのか、アホのように惚ける。
 そして数秒後。御幸の叫びが、周辺の空気を震わす
「えぇぇー!?」
「うるさいなぁ。近所迷惑だよ」
 美奈は、指で耳を押さえながら迷惑そうに言う。だが、御幸はそれどころではない。
「な、なんでさ!?せっかくうまく逃げてきたのに!」
「だって顔覚えられたから、潰すなら早めにしないとね」
「なら一人で頑張ってよ!俺はまったく無関係だ!」
「あいつらに追い掛けられるのは、あんたの責任じゃない!」
「う…」
「それに召使いは文句言わない!命令はすぐ実行!」
「でも、喧嘩は…」
 御幸は最後まで言葉を続けられなかった。美奈の眼がどんどん恐くなったからだ。
「御幸くん」
 笑顔のまま、両手で御幸の手を握る。それもかなり力を込めて。
「あの…」
「一緒に、きてくれるよね?」
「帰りたいなぁ、なんて思っ…痛っ!」
 美奈が手に力を込めて再び尋ねる。
「いいよね?」
「い、いや、遠慮し‥‥‥っ!」
 今度は手首を捻られて、御幸は声にならない叫びをあげる。
「いいよね?」
 御幸はあまりの痛さに、首を縦に振ってしまう。そしてようやく、手が解放される。
「ありがとう!さすが御幸くん」
 そう言うと、痛みに顔をしかめている御幸を無視して、さっさと歩きだす。
「…くそっ、なんでこんな目に…陰謀か?イジメなのか…?」
 かなり痛む手を擦りながら、ぶつぶつと文句を言っていた御幸だが、すぐに諦めて、美奈に追い付くために走っていった。


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