華麗なる逃亡日記 〜A reminiscent talk〜-3
強い光が目蓋ごしに伝わってくる。目を開けてみると、青い空と輝く太陽が飛び込んできた。あまりの眩しさに目を細める。
「あっ、起きた?」
頭上からの声に顔を上げると、美奈が顔を覗きこんでいた。
「あれ…?ここはどこだっけ?」
「公園だよ。気絶しちゃったから運んであげたの」
周りを見回すと、ブランコや滑り台。確かに公園だ。どうやらベンチに横になっているらしい。
だが一つはっきりしないことが。
「いつ気絶…?」
「あー、まさか憶えてない?やっぱり頭はまずかったかな?」
「頭…?」
「ん、気にしないでいいよ。てゆーか気にしないで」
「あ、あぁ…」
その問い掛けには有無を言わさぬ力があった。怯えつつも了解の意を示す。
「そーだ!約束憶えてる?」
「へ?約束?」
「気絶する前に、召使いになってくれるって約束したじゃん!」
「えぇー!?」
憶えていない。だがそんな話をしたような気もする。
「ちゃんと約束は守ってもらうよ!」
「そんな約束…」
「し・た・の!だから御幸くんは今日からわたしの召使いに決定!文句は!?」
「な、無い…です」
やはりと言うか、有無を言わさぬオーラを放って言う。
「…けっこう簡単に騙せたわね…」
「え?穂沢さん、なんか言った?」
「なんにも。気のせいじゃない?」
「…気のせいかなぁ?騙せたって…それに、いつ約束した…?」
どうにも腑に落ちないのか、ぶつぶつと呟きはじめる。
思い出されると厄介なので、急いで話題を変えようとする。
「み、御幸くん!」
「は、はい!?」
だが焦りすぎて、ほとんど叫びに近い。訝しげな御幸の視線を受けて、半分ぐらいの大きさで言い直す。
「えっと…そ、そうだ!さっきは何であんなに必死になって走ってたの?」
「走ってた?」
「うん。死ぬ一歩手前って感じで」
「…あぁ、そっか。確かに走ってた」
「で、なんで?」
「それは…」
そう言って視線を上げるた御幸は、何かを見つけてサッと顔色を変える。美奈はその普通じゃない変化に驚きつつも、声をかけようとする。
「ん?どうし…きゃあっ!?」
だが突然、植込みの陰に押し倒された。美奈の脳内に嫌な想像が広がる。
人気の無い公園。
↓
男女の学生。
↓
押し倒される。
↓
自主規制…。
「いやぁー!昼間から何すんの!」
「ちょっと待って!静かに!」
「初めての相手は絶対に拓巳くんって決めてるの!離してよ変態!スケベ!」
「違うって!ちゃんと理由が…」
「人呼ぶわよ!」
「‥‥‥」
仕方ないので口を押さえて黙らせる。
「んー!んんー!」
「さっき走ってたのは逃げるため!で、その追ってきたやつが今ここにいるから、見つかるとマズイから隠れたの!わかった!?」
美奈は首を激しく上下させる。それを見て御幸は手をどかす。
「ぷはっ、まったく鼻まで覆わないでよ」
「わざとじゃない」
「ま、いいか。で、どいつ?」
「滑り台の辺りにいるやつら」
そう言われて、植込みから少し頭を出して周りを見ると、確かに滑り台の近くに男が二人いる。だが、格好が普通ではない。
「…ねえ」
「どうした?」
「…あの髪型はパンチパーマ?」
「そうだよ」
「…派手なシャツ着てるね…」
「あれはアロハシャツだな」
「…停めてあるベンツあの人達の?」
「多分ね」
「…一般人に、見えないんだけど?」
「堅気の仕事はしてないだろうな」
御幸はあくまで淡々と語るが、美奈は驚きを隠せない。呆気にとられた顔で御幸の方を向く。
「‥‥‥」
「穂沢さん、どうかした?」
「…なんであんな人達に追い掛けられてるの!?」
「さあ?した事と言えば、道で肩がぶつかった時、別の髪型を勧めたぐらいだし」
「‥‥‥」
美奈は、やっぱり厄介ごとに巻き込まれた、と思った。それも、かなり大きな。
「で、穂沢さん。どうやって逃げる?」
「御幸くんのほうが頭いいじゃん。人に聞く前に考えてよ」
「人使い荒いよ…」
「なに?」
「なんでもないって…あ、思いついた」
「どんなの?」
「穂沢さんが両方ともぶっ倒す…って、冗談だって。睨まないでくれよ」
「もう、真面目に考えてよ!」
そう言って、今日何回目かの溜め息を吐くと、苛立たしげに地面を殴り付ける。