華麗なる逃亡日記 〜A reminiscent talk〜-2
「あとは‥‥」
「‥‥‥」
「痛いの痛いの飛んでいけ〜!!」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
声も虚しく、沈黙が辺りを包みこむ。
「…やっぱりこんなのじゃ無理だよね〜。こんな時は医者呼ぶべきかなぁ?」
「い、いや…てゆーか…」
「あっ、御幸くん生きてたの?」
「結構ヤバめ…死にそう…」
「うん。死にそうな感じは良くでてると思うよ」
「いや、マジで…」
「でも、表情がちょっとだけわざとらしいかな?」
「‥‥‥」
「あれ?まさか本当に具合悪い?」
「さっきから言ってるってば…」
「冗談だよぉ。それよりも、休むんなら公園とかにしたほうが良くない?」
たしかに美奈の言うとおりである。いくら人が少なくても、道路の真ん中で寝るのはマズイ。
「…恥ずかしい話、疲れて一歩も歩けないんだよ」
「そうなの?なら歩けるまでそこで寝てたほうがいいよ」
「それじゃあ意味無いって…」
「じゃあどうしろって言うのよ!」
「逆ギレかい…俺としては、公園まで運んでくれたら嬉しいんだけどな」
「イヤ。疲れるもん。女の子に重いもの運ばせないでよ」
「くっ…即答のうえ物扱い…」
「それに、今の世の中ギブアンドテイクが基本よ?」
「金とるのか!?」
「べつに物でもいいけどね」
「‥‥‥」
「ふふっ、手助け、必要ないの?」
笑顔で問い掛ける。その顔は、小悪魔的笑い、という言葉がぴったりだ。
「くっ…じゃあ、コンビニで肉まん一個」
「…わたし帰る。じゃあね」
美奈はクルリと背を向けると、スタスタと歩きだす。
「あぁ!ちょっと待って!あんまんもつけるから!」
「はぁ、わたしの労働は二百円ぐらいの価値しかないんだ…」
立ち止まり振り向くと、芝居がかった動作で言う。
「じゃあ何がいいんだよ!?」
「そうだなぁ…色々あるけど、催促するみたいだから言わない」
「なら文句言わないでくれよ…」
そう言って顔をしかめる御幸。それに対して、美奈はどこか楽しそうだ。
「あ、やっぱり言おうかな」
「…とりあえず言ってみてよ…」
「えっと、なんでも言う事を聞く召使いがほしいなー」
相変わらず笑顔のまま言う。御幸は、その笑顔にいやな予感を覚えた。
「…まさか、俺にそれをやれ、とか言わないよね?」
「そこまでは言わないよぉ。でもここまで聞いて断る人なんて、まさかいないよねー」
「もし…もしもだよ、断ったら…?」
「あはは、そんな命知らず、いるわけないでしょ?」
そう言って拳を突き出す。拳が空を切る音が、いやに大きく聞こえた。
「…選択肢一つしかないじゃん…」
「あーあ、欲しいなぁ召使い…」
何かを期待するような目線を向ける。
「あー!もういい!自力で行くさ!這ってでも行ってやるよ!」
本当に這いずりだした御幸の進路を塞ぐように立つ影。
顔を上げなくても美奈だとわかる。
「…退いてくれ」
「イヤ。わたし、今ここに立ちたいの」
「一歩隣でも変わらないだろ」
「この場所じゃないとダメなの」
「どいてくれ」
「イヤ」
「どい…」
「イヤ」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
言い争うだけ体力のムダだと判断した御幸は、美奈の右を行こうとする。だが、それに合わせて美奈も隣に一歩動く。
「…そこが良かったんじゃないのか?」
「気分が変わったの。今はこっち」
軽い怒りを感じつつも、こんどは反対側を行こうとする。すると美奈も動く。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
御幸も、今度は何も言わない。ただ無言で右に動くが、やはり邪魔される。
「‥‥‥」
御幸がまた左へ。
「ふん‥‥」
美奈も同じ方に。
「くっ‥‥」
御幸が右へ。
「‥‥‥」
美奈も動く。
「‥‥‥」
御幸が左へ…と見せ掛けて、さらに右へと動く。
「えっ!?」
美奈は反対側に動いていた。
「はっはっはっ!引っ掛かった!」
この好機を逃さずに進もうとする御幸。
だが、
「甘いッ!」
「へ…?ぐあっ!?」
高速で迫った美奈の足が、御幸の鼻の辺りを蹴っ飛ばす。
蹴られた御幸は、地に伏すと動かなくなった。
「…やっちゃった」
どうやら気絶させてしまったようだ。
「まいっか。これで召使いゲットね!」
だが美奈は、気にしてないように言うと、極上の笑顔で御幸を引っ張っていった…