一人目:アリア-3
太陽が昇りきった真昼の時。
アリアは儀式用のローブに身を包み、太陽の間の前に立っていた。
この扉の向こうに、太陽の神様がいる。
アリアは胸に抱いたその鍵を、鍵穴に差し込んだ。
ガチャン…と鍵のあく音が響いた。
アリアは鍵を引き抜くと、恐る恐る扉を開いた。
そして…。
そして、アリアは言葉をなくした。
「やぁ、アリア。初めましてかな?」
扉の向こうに居たのは、あの…アリアを襲った暴漢の男だったからだ。
いやらしい目でいつもアリアを見ていた男。
あの日、アリアのブラウスを引きちぎった男。
初めて…アリアの素肌に触れた男。
アリアは自分がガタガタと震えているのに気がついた。
どうして?
なんで?
どうして?
ぐるぐると、アリアの思考は回り続ける。
そして、アリアは思い出したのだ。
神々が、人の姿を借りてこの世に降りてくると言う事を…。
「アリア」
「っ…、は、はい」
思い出しても、アリアの震えは止まらない。
目の前にいるのは太陽の神様だと、いくら自分に言い聞かせても、駄目だった。
「アリア。この男は、お前を穢そうとしたのだったな」
「は、い」
「しかし、今は私がこの罪人の姿を借りている」
「はい…」
太陽の神は、ローブの上から震えるその身体を抱き締めているアリアに優しく微笑んだ。
「アリア。純潔の乙女よ。今日の事はなかった事にしょう」
太陽の神のその言葉に、アリアはハッと顔を上げた。
「た、太陽の神様…」
「アリア。そなたはまだ知らないかもしれないが、秘儀の交わりとはな…その名のとおり、神々と選ばれし純潔の乙女達が交わると言う事なのだ。キャンバラの民の代表であるそなた達、純潔の乙女と交わる事で、我々はより深く、より明瞭にキャンバラの民を知る事になるのだ」
「太陽の神様と私が…」
太陽の神はアリアによくわかるように説明した。
この説明は、純潔の乙女の初めての相手となる神が自ら話して聞かせると言う暗黙の了解がなっていた。
今まで太陽の神の話を黙って聞いていたアリアは、不意に立ち上がった。
そして、唯一身にまとっていた儀式用のローブを、スルリと…脱ぎ捨てた。
「アリア…」
今や太陽の神の目の前には、熟す前の、少女特有のみずみずしい裸体が惜し気もなくさらされていた。
太陽の神がアリアの名を呼ぶ。
アリアの身体は、もう震えてはいなかった。
「太陽の神様。私は一度…穢された身です。それでも、太陽の神様は私に神託をくださいました。私は、私は…大丈夫です。この穢れた身をどうか、どうか浄めてください!」
アリアは太陽の神にすがるように懇願した。
両膝を床につき、まるで祈るかのように太陽の神の前に膝まずいて…。
太陽の神はそんなアリアの細く頼りない肩を抱いて立たせると、そのまま横抱きに抱き上げた。
そして、アリアに言った。
「後悔はしないか?」
「後悔などいたしません。この身を、太陽の神様に捧げられない方が余程後悔いたします」
アリアの迷いのない、曇りない瞳に、太陽の神は満足そうに微笑んだ。
「アリアよ。愛しき純潔の乙女…」
太陽の神は儀式用の刻印が刻まれた神台の上にアリアを横たえると、その上に覆い被さった。
「そなたに触れても良いか?」
「はい。太陽の神様。私は…アリアは太陽の神様に、神々に全てを捧げます。アリアは太陽の神様の物…神々の物。どうか、どうか…」
「アリア…」
「太陽の神様…」
見つめあう太陽の神とアリア。
二人の唇が重なるまで、そんなに時間はかからなかった。