本当の優しさ-1
「美咲先輩!お願いします!また一緒に舞台に立って下さい!」
学校祭の時一緒に英語劇をやった演劇部の一年生の女の子が頭を下げて来た。
「やめてよぉ!頭を上げて!私には出来ないよ!」
「そんな事言わないで下さい!先輩には才能があります!その才能を埋もれさせておくなんて勿体ないですよ!」
「私には才能なんてないから...だから...本当にゴメンね....」
私は何度も断った。
「私は絶対諦めませんから!」
そう言って一年生は帰って行った。
「モテモテだね!美咲!」
今の様子を見ていた理彩が声をかけて来た。
「毎日のように来られてもなぁ....」
私はため息混じりに答えた。学校祭で英語劇をやってから12月に入った今まで毎日のように誘いに来る....自分を必要としてくれるのは嬉しいのだが....彼女が言ってくれるような才能があるなんて私には信じられなかった....私は北原美咲(きたはらみさき)、隣にいるのが仲谷理彩(なかやりさ)私の親友である。そう自分では思っている。
「あの子また来たの?」
そう話しかけて来たのが木下和哉(きのしたかずや)私の彼氏だ。和哉のおかげで私は変わる事が出来た。それまでの私は引っ込み思案で目立たない存在だった。和哉と知り合って一歩前へ踏み出す勇気を持つ事が出来た。和哉がいなければ今の私は無かっただろう。
「うん」
私が頷くと
「毎日毎日...よく続くなぁ...」
和哉が感心したように言った。
「んもう...他人事だと思って...」
私は和哉を軽く小突いた。
「あの子の言う通り!北原ちゃんには才能があるよ!」
そう言ってくれたのは氏家直輝(うじいえなおき)理彩の彼氏である。
「んもう...直輝君まで...」
「お世辞じゃなくて...初めは北原ちゃんがでるから....それだけで見てたんだけど....北原ちゃんの演技に引きずり込まれて....涙が止まらなかったから...」
「やめてよぉ...直輝君まで....」
私が照れくさそうに言うと
「直輝の言う通りだよ!私なんか二回同じ物を見ているはずなのに...二回目も一回目以上に泣けちゃって....」
「理彩まで...からかわないでよ....」
「冗談じゃなくって!美咲が出るならお金払ってでも見たいって思ったもの...」
「んもう...そんな事言ったって何もおごらないよ!」
「俺もそう思った!北原ちゃんが出るならって...」
「直輝君まで....」
「そう思ってるの俺達だけじゃなくって....」
「えっ?どういう事?」
「北原ちゃん知らないの?」
「何を?」
「クラスの奴に聞いたんだけど...北原ちゃんのファンクラブがあるって...」
「えっ!嘘....冗談でしょ!」
私が驚いて言うと
「冗談じゃなく本当の話!そいつもファンクラブに入ったんだって!」
「凄いじゃない!私も美咲のファンクラブに入ろうかな...」
「理彩?」
私が理彩を睨むと
「冗談じゃなく本気だよ!」
理彩は平然と答えた。
「俺も入ろうかな....」
「直輝君まで....」
私は困ったような照れくさいような複雑な気持ちだった....
「あと...織田と葵ちゃんのファンクラブができたらしいよ!織田は女の子に!葵ちゃんは男に人気があるみたいだけど...」
織田は直輝君と同じクラスで演劇部の部長でもある。学校祭での英語劇で私の恋人役の美少年を演じて女の子の人気を集め、葵ちゃんは演劇部の一年生の男の子で私の友人(女の子)役を演じて男の子に人気が出たみたいだ。