華麗なる逃亡日記 〜2nd escape〜-3
「言いたいことはよ〜くわかったよ」
「そ、そう?それはよかった…」
「そんなに私に血を見せたいのね…?」
予想どおりだ。話し合いで解決できるなら自衛隊はいらないだろう。
だが、今は凛ちゃんもいる。守らなくてはいけないので、一歩前にでる。
「あれ?準備はいいみたいだね」
そう言って、揺れながら近づいてくる。美奈の一撃の破壊力は尋常ではない。普通の机ぐらいなら軽く吹き飛ばせるだろうが、これだけ固定された机があれば、まだ攻撃はできないだろう。
ぎりぎり間合いに入った途端、美奈は無造作に左足をふる。
(まだ、避けれる速さだな)
難なくそれを躱す。躱した足は勢いそのままに、近くにあった机に向かって進む。その足がぶつかると思った瞬間、信じられないものを目にした。
靴が微かに光ると、当たった場所からまるで水に潜るように靴の幅だけ、キレイに削りとられていた。
「ちょっとまて!そんな威力で蹴られたら死ぬって!」
「いいよ。殺す気でやってんだから」
マズすぎる。だが、いくら美奈が強いといっても、机を削りとるような蹴りは、本来なら無理だろう。
理由はさっぱりわからないが、分が悪すぎるので一旦逃げることにする。
「凛ちゃん、逃げるよ!」
再び左から回し蹴が襲う。それを右に跳んで躱す。射程内にあった机が、欠片を撒き散らし崩れる。
跳んだ勢いそのままに、凛ちゃんの右手を掴んで走りだす。
幸い、出口は近いし、逃げ足なら美奈に勝つ自信もある。
「逃がさない…」
しかし、美奈は信じられない跳躍力で一気に距離をつめる。
もはや跳躍というより飛翔だ。
飛び蹴をぎりぎりで躱しつつ、速度は緩めないで走る。すると、不意に携帯が鳴った。そんな場合じゃないが、あまりにしつこい。仕方なく走りながら出る。
「やっほー、鈴くん。元気ぃ?」
「御幸か?今忙しいから後で…」
「付き合い悪いなぁ。ところで蹴の威力はどのぐらいだ?」
「‥‥‥は?」
「だから、俺の発明品で、蹴りはどれぐらい強くなった?って聞いてんの」
「…おまえ、美奈になんか言ったろ?」
「えーっと、たしか物理教室で、鈴くんと冬月がラブラブだって言った」
電話の向うに、災厄の元凶がいた。
「何すんだよ!こっちはそれとお前のヘンテコ発明品のせいで死にかけてんだぞ!」
「そうか…なら一万で手を打とう」
「は?なにがだよ」
「一万で状況を打破してやろうって言っているんだ。命と引き替えなら安いだろ?」
ふざけんな!お前が悪いんだろ!
だが、この状況では頼るしかないようだ。
「…助けてくれたら金は払う」
「しかたない、それでいいだろう。じゃあ、助けてやるから今から体育館に来い」
プツっ。ツーツー。
「くっ…!」
勝手に切られてしまった。何だか釈然としないが、体育館に迎ってひたすら走る。
…体育館の入り口が見えてきた。だが、間に合うか、追い付かれるかは微妙だ。
最後の力を振り絞り体育館に駆け込む。そこには、仁王立ちの御幸の姿が。
「伏せろ!」
御幸が叫んだが、どちらにしろ全力を使い果たした僕らは、床に倒れこむ。
それでも僕は、右手だけは決して放さないように、しっかりと握り締めた。
そのまま、僕達の意識は、闇に向かって沈んでいった…