華麗なる逃亡日記 〜2nd escape〜-2
「なんだったんだ、いったい…?」
「ごめんね、鈴村くん。さっき起きたばっかりなのに…」
「え?あ、いや、そんなことないよ!」
「そう…?鈴村くん優しいね」
ずっぎゅーん。
そう言ってなった笑顔は、もう死んでいい!って感じの気分になる笑顔だ。あぁ幸せな脳内未来図が…
だが、その妄想も思い出した人物のせいで粉微塵になる。
「あ゛ーー!そういえば美奈は!?」
「え?穂沢さんなら、鈴村くんを運んできたあと、
『拓巳くん疲れてるみたいだから、起こさないであげてね☆起こしちゃったら‥‥だよ』
って言って、いなくなっちゃった」
「あいつ…余計なことを…」
どうやら、教師も含め全員、美奈の‥‥を恐れて僕を起こさなかったようだ。ちなみに‥‥は御想像にお任せします。
「でも…正直、うらやましいな…」
「え?なにが?」
「穂沢さんと鈴村くんのこと。二人ともすごく仲良くて…」
「そ、そうかな?」
ま、まさか、脈ありですか!?幸せが現実に!?
「わたし、仲がいい友達少ないから…」
撃沈。ただの早とちりだったようだ。
だが、これは大チャンスだ。
「じゃあ僕が友…」
キーンコーンカーンコーン。
「あっ、次の物理は移動教室だから、早くいかないと。鈴村くん行こ?」
くそ、謀ったようにチャイムが。だが、見回すと、すでに教室に人はいなかった。僕は慌てて物理の準備をして凛ちゃんと一緒に走りだした‥‥‥
‥‥‥
‥‥‥
時は移って放課後、僕は凛ちゃんと二人で物理教室の掃除をさせられていた。
あのあと、急いだが間に合わず、気分屋で知られる物理教師の機嫌が悪かったこともあり、罰として教室掃除を命じられてしまったのだ。
だが、凛ちゃんと二人きりになれたので、僕としては、まったくの無問題だ。
「ふ〜。よし、こんなもんかな。鈴村くん終わりにしよ」
だが、幸せな時間はすぐに終わってしまった。
「じゃあ、そうしよっか…」
「鈴村くんはもう帰るの?」
「うん。居残ってもすることないし。冬月さんも?」
「うん。私も同じ」
あぁ、終わってしまった。だが、自分でも予想外の一言をさらりと言ってしまった。
「じゃあ、一緒に帰らない?」
「え…?」
うぁ〜!なに言ってんだ僕!
誤魔化そうとするが頭の中が真っ白になって、なにも思い浮かばない。
「うん。いいよ」
しかし、あまりの意外な返事にさらに真っ白になる。
いい?E?って…
「え!?ほ、ほんとにいいの!?」
「うん。それより、一度教室もどろ?」
「う、うん!今行こ、すぐ行こ!」
「ふふふ、そんなにはしゃがなくても」
二人の周囲にいい雰囲気が流れ始める。
よっしゃ!僕の時代がきた!
だが、そんな雰囲気を打ち壊すように、どす黒い殺気をまきちらしながら、戸を開ける人物。
「み…美奈!?」
「きゃ…!」
入ってきたのは美奈だった。その形相は、昼休みの顔が可愛く見えるぐらい、恐ろしい表情だった。なぜか制服に所々血が付いていて、怖さに拍車を掛ける。凛ちゃんは恐怖のあまりに泣きだしそうだ。
「や、やあ美奈。しばらくぶりだね」
「そうだね…、拓巳くん」
「どこに行ってたのか教えてくれたらうれしいな。は、はは」
「ちょっと由紀ちゃんにお仕置きに」
お仕置き?なら、その血はなに!?
「拓巳くん、私も質問していい?」
「ど、どうぞ…」
淡々と喋るのが逆に恐い。断ったら、痛覚を持って生まれてきたことを後悔することになるだろう。
「こんな所で二人で…なにしてたの?」
「なにって…遅刻した罰の掃除を…」
「ほんと…?」
「鈴村くんは嘘なんてついて…ひっ!」
突然大声を出した凛ちゃんを、美奈が睨んで黙らせる。それに怯えて僕にしがみつく凛ちゃん。
それが、また美奈の逆鱗に触れる。