黒い魔獣-17
「は……ぐぅっ…」
脂汗を流しながら苦痛に耐えるアースは、キャラの腕から滑り落ちて地面に転がり、目だけあげて視線を合わせる。
『「頼んだぞ」』
アースとグロウの声が重なった。
キャラはしっかり頷くとアースに口付けて実技場から出る。
「学長!お願いします!」
キャラが出たのを確認したベルリアは魔法陣を発動させた。
「発!!」
ベルリアがバンッと地面に両手をついた時、実技場全体が光に包まれる。
キャラは武器庫に走り準備してあったベルトを腰に巻いて、片刃の長剣を手に取った。
すぐに戻ると様子を見ているベルリアの横に立ち実技場のアースに目をやる。
アースは爪を立てて地面をかきむしっていた。
その爪は異様に伸びており、破けた服の隙間から覗く肌は黒い毛で覆われている。
『「が…あ゛…ぐぁっあぁあぁぁっ」』
口から出る声はアースとグロウのが重なっており、次第にひとつの声となる。
『!がはっ!』
その口から大量の血が吐き出され地面を赤く染めた。
駆けつけたリンは手を口に当てて目を反らし、ベルリアがその肩を抱く。
キャラは……その光景を焼き付けるように……目を反らしたりはしなかった。
『あ゛があぁあぁぁっあ゛あ゛あぁ!!!』
人のものとは思えない絶叫をあげたアースの体がベキベキと音を立ててグンッと大きくなる。
激痛にのたうち回りながらアースはグロウに呼びかけ続けた。
(グロウ!)
精神世界とでも言うのだろうか……気がつくとアースは真っ暗な空間にいた。
(グロウ!どこだ!?グロウ!)
何かが渦巻く真っ暗な空間を必死に進むと、自分そっくりな人物が漂っているのを見つける。
アースは力無く浮いている人物……グロウに近づき、手を伸ばしてその腕を捕まえて引き寄せた。
《ば…かやろ……俺は…いいから…自分…どうにか…しろ……》
(うぅるせぇ!馬鹿って言うな!お前だって俺だろうが!勝手に居なくなるのは許さねぇぞ!)
力を使い果たして輪郭までボヤけているグロウにアースは怒鳴り付ける。
(お前が居なくなるとアイツが泣くんだよ!泣かせたくねぇんなら気合い入れやがれぇ!!)
アースはグロウの手を握り、声の限り叫ぶ。
このままアースの精神に溶けて戻るのがベストだとは思うのだが……確かにキャラの泣き顔はもう見たくない。