今夜、七星で Yuusuke’s Time <COUNT3>-13
そう考えるとまた楽しくなってきて、でもやっぱり樹里さんは居心地がいいと心の隅で思う。
そんな繰り返し。上がったり下がったり、俺はどうしたいのか。
答えが見つからずにただ笑って、飲んで、酔って。
椿さんの肩に寄りかかり、心配しているその表情を見ないふりして甘えていた。
「もうでよぉかぁ?明日も働くんですよぉ、ねぇぇぇ?つーばき?」
鼻歌交じりで解散を促し、俺たちは店を後にする。
早い時間に入ったからまだ9時ぐらいで。
三時間でこんなにも出来上がっている自分たちがおかしくて、人々がまだたくさん行き交う往来にも拘らず笑いながら闊歩した。
そういえばもうすぐクリスマス。
華やかなネオンに彩られた街並みは、ただ見物に来るだけの恋人たちも多くて思わず人酔いしそうなくらいだった。
冷たい北風が否応なく火照った体を冷やしていく。
頭も段々クリアになり、口数も少なくなっていく。いつの間にかふざけた笑いは消え、黙々と駅に向かって歩く俺達。
とりあえず駅まで樹里さんを送ってから、俺が椿さんをマンションまで送って帰る算段になっていた。
そんな矢先だった。
ドサッと鈍い音。
椿さんのお気に入り、某ブランドロゴが入った黒のトートバック。ボーナスで買ったんだ、と大事に使っていたそれが。
雪と雨で汚れたアスファルトに落下した。
「椿?」
「椿さん?」
慌ててバックを拾い上げる樹里さんの傍らで、椿さんは一点を見つめて蒼白な面もちで固まっていた。
見つめる先を見やれば、相手も気付いたのだろう、同じ様に固まる男がいた。
男、そうか。
スーツに身を包み、がっしりとした体型。遠目にはそれしか解らないが、つまりは。
椿さんの本命だという事実を俺は直感し、そして確信した。
固まった椿さんの理由、本命だけではなくて。
「よかった、濡れてないよ」
樹里さんが言い、そのバックを俺に渡した。受け取りはしたが、なにも反応できなかった。
凍りついたように動けないのは、椿さんの痛々しさがひしひしと伝わってくるからだ。
その男の右には年上のような女と、幼い女の子が手を繋いで佇んでいたから。
「…あ…たの……ち…?」
立ち止まる本命野郎を傍らの女が手を引いて俺たちの方へ歩み寄る。
こちらを見ながら口を開く女の様子に、何か語りかけているのが解る。
だが、行き交う人々、街頭のBGM。とてもじゃないが相手の話し声など聞こえやしない。
しかし。
知った声というのは耳に入るようで。
「……あ……の、だ」
男が呟く言い訳に、目を見開く椿さんの姿があった。
「嘘…でしょ…」
小さく。耳を澄まさなければ聞こえないほどの声。
椿さんの心の叫びが独りでに唇から溢れていた。
そして
「ちょ、椿?!」
振り切るように今歩いてきた道を逆走する。
樹里さんが追いかけようとするが、俺の方が早かった。
体が勝手に動いたんだ。
面倒事はごめんだ、といつも見て見ぬ振りをする俺なのに。
気付いたらまっしぐらに椿さんの背中を追っていたんだ。