坂田会-2
「………た…高野さん……立てますか……」
三田村は力を振り絞って酩酊状態の直美の腕をなんとか自分の肩にのせた。
しんどいのは自分も同じだが、先輩に言われた以上、従わざるをえない。
「……じゃあ俺達は王様ゲームの続きやろうぜ……なぁ、あいりちゃん」
坂田と上野がじっとりと舐めまわすような視線であいりを見た。
「……あ…は…はい……」
あいりはふわふわとした焦点の合わない眼差しで、意味もわからないまま坂田の提案にこくこくと頷いている。
すっかりアルコールがまわったあいりは、耳たぶから鎖骨まで綺麗なピンク色に染まって、たまらなく色っぽく見えた。
ニヤリと意味深な笑いを浮かべて目配せする坂田と上野。
この状況であいりを残して行くのは危険すぎる気がした。
「あいりちゃん……吐かんでも大丈夫か?」
三田村の問い掛けに小さく頷くあいり。
しかし、やはり自分と目を合わせてはくれない。
最近あいりは明らかに三田村を避けている。
付き合っているわけでもない女性にどうしてここまで固執してしまうのか、自分でもよくわからない。
だが、あの明るい笑顔の陰に隠された言い知れぬ闇に気付いてしまった以上、三田村はどうしてもあいりをほっておくことができなかった。
「いいから早く行けよ!ここで吐いたらどーすんだよ!」
坂田がイライラした口調で三田村の尻を叩く。
「……すぐ…すぐもどりますから……」
三田村はあいりに言い聞かせるように意識的にゆっくりと言うと、フラフラの直美を引きずるようにドアの外へ連れ出した。
自分で立つことすらままならない直美をなんとかトイレまで運びこんでホッとした瞬間、三田村自身も強い吐き気に襲われた。
直美の身体を全力で支えながらここまで必死で歩いたせいで、アルコールが一気に全身にまわったらしい。
廊下の壁によりかかったまま頭を抱えてズルズルと座りこむと、もう二度と立てる気がしなかった。
「やば……思たより……きてるわ……」
廊下は、飲んでいた部屋とは別世界のようにシンと静かで、ひんやりとした空気が漂っている。
坂田のマンションは、男の一人暮らしにしては部屋数も多く、防音も行き届いた立派な住まいだった。
間もなく激しく咳込むような声がして、扉の向こうから直美がさかんにトイレの水を流す音が聞こえてきた。
なんとか一人で吐くことが出来ているらしい。
それにしても頭がガンガンする。
「……あかん……むっちゃしんどい……」
噂には聞いていたが、ここまでひどい飲み会だとは思わなかった。
普通ならばもう帰りたいところだが、あいりが無事に解放してもらえない限り、自分だけ先に帰るわけにはいかない。
この飲み会が本当に恐ろしいの、これからなのだ。