華麗なる逃亡日記-1
月曜の昼休み、僕は屋上で一人、昼食を食べていた。
理由は、クラスに友達がいないとか、そーゆう事ではない。逃げているのだ。
誰から逃げてるのかは、人生色々、悲喜交々って事で。
「あっ!拓巳くんはっけ〜ん!」
だが、そんな僕のささやかな努力も、一瞬で砕け散った。
「美奈!?」
「拓巳くん、会いたかった〜!」
そう言って飛び付いてくる少女。
「あ〜、もう!離れろよ!飛び付くな!」
それをなんとか振りほどく。
「拓巳くん、久しぶりに幼なじみに会ったのに、冷たいよ…」
「いや、朝からずっと同じ教室で授業受けてたって…」
そう、僕はこいつと同じクラスだ。久しぶりなわけがない。
「でも、昼休みが始まったら、すぐにいなくなったもん!」
「いや、それは教室にいたくなくて…」
「なんで私誘ってくれなかったの!?拓巳くんひどいよっ!」
まずい。今までの経験上、次は泣き落としに入るはず。
「ぐすっ、拓巳くん私のこと、そんなに嫌いなの…?」
ほらやっぱり。勘弁してほしい。
だが、いくらなんでも、女の子が泣き始めたら無下に扱うわけにもいかない。
「いや、別に嫌いじゃない…と思うよ」
「ほんとに?じゃあ私のこと好き?」
「う、うん。まぁ」
「そーだよね!拓巳くんが私のこと嫌いなわけないよね♪」
嘘はついてない。
確かに可愛いし、嫌いではない。
好き嫌いで二つに分けたら、好きなほうに入る。
「で、なんか用?」
「えへへ、拓巳くんに会いたくて」
「それだけ!?」
「うん。そーだよ」
さっきの涙が嘘のような笑顔だ。まったく単純だ。
「でも、僕が屋上にいるってこと、何で知ってたの?」
「それはもちろん、拓巳くんを思う乙女の勘だよ」
面と向かってここまで言われると、さすがに恥ずかしい。
なぜ、平然とこんなことを言えるんだろうか?
恥ずかしいので話題を変える。
「と、ところで、昼飯は食べたの?」
「え?拓巳くん探してたからまだ」
「じゃあ早く教室戻って食べろよ」
「私、今日お弁当もってきてないよ?」
爆弾発言である。
昼休みが始まってかなりたった。
今購買に行っても何も無いだろう。
「昼飯どうするつもりだよ?」
「うーん、拓巳くんを見つけたから、それで満足!」
そうは言うが、話し中に小さく、ぐぅと鳴ったのを聞いてしまった。
「しかたないなぁ、弁当分けてやるよ」
「本当!?やったー!拓巳くん大好き!」
そう言って弁当を渡すと、すぐに食べ始める。満足してたんじゃなかったのか?
「ごちそうさまー。おいしかったよ」
数分後、空になった弁当箱を受け取る。
「それはどーも」
「あのね、お礼したいけど、今何も持ってないんだ…」
「お礼?別にいいよ」
勝手にとはいえ、自分を探してたせいで、昼食抜きなのだ。
このぐらいは、してあげて当然だろう。
「お礼はしなきゃダメなの!だから…」
「怒鳴るなよ…。だから、なに?」
「あ、あの、か、体でお礼してあげる!」
「な!!?」
言いながら抱きついてくる。
「拓巳くんは、私のこと嫌い…?」
上目遣いで見つめる美奈。僕も男だ。これで嬉しくないといったら大嘘になる。
が、常識的に考えてまずい。
「いや、あの、気持ちだけで十分だからさ!だから…!」
体を離そうと思い、後ろに下がろうとしたが、慌てていたので、派手に転ぶ。
「うわっ!」
「きゃ!?」
背中を強打して息が詰まる。
さらに、鳩尾付近に美奈の体重がかかって、息ができない。
「み、美奈、早く、どいて…死ぬ…」
「えっ?あ、ご、ごめん!」
なんとか声を搾り出すと、美奈が体を起こして、息ができるようになった。
空気のありがたさを実感しながら深呼吸をする。