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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Fortsetzung eins=-1

 静かだ…。
 俺は教室の窓から外を見る。ヒコーキ雲が一筋、空に流れている。その空にできた白い線に交差するように、トンビか何かが飛んでいった。溜息が出る。
「…憂鬱、だな」
 ボソッと呟き、俺は手に持っていたシャープペンを机に転がした。
「解るわけ無いだろ、こんなの…」
 さほど大きくも無い俺の声が、教室に響く。
 教卓に座っていたロナルド先生が立ち上がる。
「チョット、ユサマクン!! テスト中ニ私語ヲスルノハ、ヤメテクダサーイ!!」
 そう、現在、数学のテストの最中である。『数学は捨てる』という主張を、学期の頭から再三に渡って繰り返してきた俺にとっては、テスト用紙など意味不明な言語がひしめく碑文でしかない。今から解読できる訳も無い。
「すいませんでした…」
 ちっともすまないと思ってないような態度で言う。
「次カラハ、カンニングト見ナシマスヨー!? アンダスタン?」
「はいはい…解りました」
 そう言って、シャープペンを手に取る。やる気のあるフリだ。
 で、やる気(しかもフリ)だけで急に知識が湧いてくるなら苦労は無く、結局俺はそのままチャイムが鳴るまでボケッとしていたのだった。


「聡…テストどうだった?」
 テスト後の常套句のような、和馬のその質問に対し、俺は一瞬にして膨れ上がった殺意を実行せずにはいられなかった。
「おまえなあ…聞くなよ!! そんな事!!」
 和馬の首をグイグイと締め上げながら、俺は叫んだ。
「ぐあぁ、く、苦し、死ぬ、ちょっ…」
 俺の手を叩いてギブアップを主張しだしたので、流石に放してやる。
「はぁ、はぁ、はぁ、いきなり首を絞めなくてもいいだろ?」
「黙れ、テスト期間終了まで、俺にテスト関係の話はタブーだ」
「それは、知ってるけどさ…つい」
「クソ…出来る奴はどいつもこいつもひけらかそうとしやがって…終わった事を話し合ってそんなに楽しいのか!? 先を見据えようとはしないのか!?」
 俺は、魂の叫びを声に乗せた。
「いや、そんなこと言われてもなぁ…聡の場合、自業自と…ぐはぁ!!」
 俺は和馬を殴った。ああ、心が泣いている。
「さーとーしーくん、テスト、どうだった?」
 急に後ろから掛けられた声に、俺は深い溜息をついた。何故こうも次々と…。
「悠樹…貴様、自分が何を言ってるか解ってるのか?」
「あはは、聡君、テスト苦手だもんね」
 くそぅ…知り尽くしてやがる…忌々しい。
「もう嫌だ!! こんなの昼休みにする話題か!! 畜生!!」
 俺は思わず、教室から飛び出して、我知らず駆け出した。


 人気を避けながら走り続け、気が付くと屋上にいた。
 本当に人気が無かった。強いて言うなら一人だけ、フェンスにもたれ掛かるようにして立っている女子生徒がいる。何だか、見覚えのある後姿だった。
「ひよちゃん…?」
 恐る恐る声を掛ける。
「…な…っ、ああ、先輩、ですか…」
 意外なものを見るように、振り返って俺を見た。
「…先輩、何でこんな所に来たんですか」
「何でって…人のいない所に行きたくて」
「…そうですか」
 妃依は、ふう、と息を漏らして、再びフェンスの向こうへと視線を戻す。
「そう言う、ひよちゃんは? 何で屋上なんかに?」
「…別に…いつもここに来てるから、今日もいるだけです」
「そ、そうなんだ…」
 『変わってるね』は言い留まった。ロクでもない事になりそうだったから。
「…それより、先輩、帰らないんですか」
「え?」
「…今日は全学年、午前中だけですよ、テスト期間ですから」
 そう言われて、ようやくそれを思い出した。道理で人気が無いわけだ。
「ああ、なんだ…昼休みじゃなくて、もう、放課後なのか…」
 やれやれ、と伸びをする。
「って、ひよちゃんこそ、帰らないの?」
 また、同じ質問で返す。
「…家に帰っても、特にする事無いですから」
 かしゃん、とフェンスに頭を当てる妃依。
「ふうん…そっか」
 テスト勉強は? とは聞かない。自分もしないから。
「ひよちゃん…もしかして、景色とか見るのが好きなの?」
「…嫌いじゃ無いです…」
「じゃあさ、ここよりは景色がいい所知ってるんだけど、来る?」
 妃依は無言で肯定を返した。


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