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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Fortsetzung eins=-2

「着いたよ」
 共同玄関に到着したので、一応そう言った。
「…って、ここは…先輩が住んでるマンションですよね」
「まあね」
 妃依は黙って、マンションを下から上へ、視線でなぞるように見上げた。
「…すごい高いですね…40階位あるんじゃないですか」
「42階建てだよ。縁起が悪いとか考えなかったのかね」
「…それで、何階に住んでるんですか」
「42階の19号室。だから…4219…死に逝く…最悪の部屋番号だろ? はは…」
「…ある意味…すごいですね」
「まあ、それはどうでもいいや…入ろう」
 俺は慣れない手つきで入り口の暗証番号を入力する。
「…こういうのがある所に住んでる人って、裕福なんですよね」
 暗証番号ロックつき自動ドアを見て、妃依が呟く。
「ひよちゃん…それは俺に対する皮肉か…?」
「…いえ、別にそういう意味では」
 中に入った俺は、玄関口の突き当たりにあるエレベーター横のボタンを押した。ここから帰るまでが大変だ。何せ42階もあるのだ、エレベーターが全部で4つあるとは言え、4、5分は軽く待たないといけない。
「あ…そういえば…」
 暇になった俺は、ふと思った事を聞いてみる事にした。
「ひよちゃん、猫とか平気?」
「…はぁ、特に苦手では無いですが」
「そうか…ならいいや」
「…猫、飼ってるんですか」
「ああ、姉さんがね」
「…飼ってもいいんですか、ここ」
「さあ…? いいんじゃない? 買った訳だし」
 知った事では無かった。
「…適当ですね」
「まあ、猫より厄介なのがいるから…って、そうだよ、そっちの方がひよちゃんにとっては…やばいな」
 やたらと嫌な事に思い当たってしまった。
「…何ですか、その、厄介なものって」
「ああ…ひよちゃんを『マスター』って呼んでる、アレ…」
 妃依の表情が引きつったものに変わる。
「…まさか…アレ、拾って帰ったんですか」
「今考えると馬鹿な事をしたと思うよ、ほんと」
「…まあ、いいですよ、別に害のあるものでは無いですし」
 そうか…ひよちゃんはまだアレが『棒』だと思ってるんだよな…。とは言え、そこを説明しても、しきれる自信が無い。
 と、その時、エレベータが1階に到着した。
 結局、ヘクセンの事については有耶無耶のままで部屋に向かう次第となってしまった。


「ただいまー」
 恐らく、姉さんが帰って来てると思うので、一応。
「…お邪魔します」
 ひよちゃんは物珍しそうに壁や天井に視線を這わせている。
 暫くして居間の方からドタドタと走ってくる音が聞こえた。
「お帰りなさいませぇ!! 弟さ…ま…」
 俺と、もう一人の姿を確認して、機能停止したかのように固まるヘクセン。
「…誰ですか、この人」
 ひよちゃんが訝しげな視線を俺に投げかけてくる。が、答えようが無い。
「マ、ママママ、マスタァァァァッ!?」
 絶叫するヘクセン。声が裏返っているのはどういう機能の作用なのか。
「…嘘…」
 ひよちゃんはヘクセンのその一言で、全て悟ってしまったようだった。驚愕と呆然が入り混じったような壮絶な表情になっている。
「どうしてここにマスターがいるんですか!? 弟様が連れてきたんですか!? 何てことを!! 余計な真似を!! 私に心の準備期間を与えてはくれないんですか!? 弟様の人外非道!!」
「…何で…アレが、こんな事になってるんですか」
「姉さんがやった。俺はそれしか知らない…」
「…ああ、なるほど…それなら…」
 ひよちゃんもそれで納得したようだ。納得してしまえるだけの説得力があった。
「虐げられた恨み!! 捨てられた恨み!! 私は忘れてませんよ!? マスターッ!!」
「…箪笥に詰め込んでいた事を根に持ってるんですか」
 ひよちゃんは敬語だった。まあ、見た目が年上なのでそれも仕方ないのかもしれない。
「その扱い!! 私を何だと思ってるんです!! 危うく死ぬ所だったんですよ!?」
「ちょっと黙れ、ヘクセン。玄関で話すのも何だから…上がって、ひよちゃん」
「なっ!! 弟様はマスターの味方ですか!? うあああ!! 何たる事!! この鬼畜!! 好色魔!!」
「違う、お前の敵というだけだ」
 俺はヘクセンを置いて、とっとと居間へとひよちゃんを通した。


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