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宍戸妃依は眠れない
【コメディ その他小説】

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宍戸妃依は眠れない-2

 五時半過ぎ。
 聡は、濡れタオルを取り替えたり、氷嚢を取り替えたりと、柄にもなく甲斐甲斐しく世話を焼いていた。流石に着替えの時は追い出されたが。
「…先輩、何だか、看病慣れしてますよね」
 ベッドに横になり、天井を見ながら、隣で椅子に腰掛けている聡に投げかけた。
「あ、分かる?」
「…それは…今、体験してますから」
「はは、確かに」
 と、そこで聡は言葉を切った。刹那の沈黙。
「俺さ、昔よく姉さんの看病してたんだよね」
「…琴葉先輩の、ですか」
「うん。姉さん、あれで昔はかなり身体が弱いクチだったんだよ」
「…ちょっと、信じられませんね」
「ああ、ホントそうだよね。なんであんな風になっちまったのか…全く…」
「…昔の琴葉先輩は、どんな人だったんですか」
「え? そうだな…かなり線が細くて…って、まあ、今もだけど…今よりずっと痩せてた」
「…薄幸の…という感じですか」
「そうだね。白のワンピースとか、良く似合ってたなぁ…」
 遠い目で、穢れなき過去に想いを馳せた。
「…想像は出来ますけど…今とは別人ですね」
「だよね…」
 聡の話では、中学に上がった辺りから姉の性格は崩壊し始めたという。一体、何があったのかは知らないが、それに伴い、身体も病気をしない位には丈夫になっていったらしい。
「まあ、今でこそあんなのだけど、姉さんは今だって、たまに風邪を引くと酷いからね…」
 表には出さない身内の事情というやつだろうか。妃依は少しだけ、悪い気がした。
「…ご両親が看病したりしないんですか」
「あの二人には期待するだけ無駄。放任主義の究極系みたいな親だから」
「…大変なんですね」
「まあ、ね…今も金だけ送ってきて、ソレで暮らせ、だもんな…」
「…じゃあ、今は琴葉先輩と二人、なんですか」
「ああ、うん。最近はそれなりに帰ってくるようになったからね、一緒に暮らしていると言えなくもないかな」
「…なんか、いいですね、姉弟って」
「い、いきなり何を言い出すかな…ひよちゃんが思ってるほどロクなもんじゃ無いよ?」
「…そうかもしれませんけど、無い物ねだりというやつですよ」
「別に、あげても良いよ? 姉さんも喜ぶかも」
「…お断りします」
 丁度、町の街頭スピーカーから、六時のチャイムが奏でられた。


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