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彼岸の空
【家族 その他小説】

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彼岸の空-4



ボサボサの頭のまま私は枕元の携帯を開くと会社に電話をかけた。



「はい。こちら○○株式会社システム管理課でございます」


昨日の後輩の声だ。



「もしもし……木下です」


「あっ!木下さん!今どこですか?いつも30分前には出社してるのにってみんな心配してたんですよ!」


時計を見ると始業5分前だった。


「ごめんね。……昨日頑張りすぎたら今日熱でちゃって……。40度越えてるの。大変なのはわかってるんだけど……お休みさせてね」


二日酔いの声のかすれを利用して大袈裟なくらいか細い声で言う。


「ええっ?今日木下先輩来られないんですかっ?困りますっ……。今日年度がわりの日ですよぉ」


電話の向こうで後輩が焦っているのがわかる。
気の毒だがあの二人では今日の仕事を処理するのに夜中までかかるだろう。


「じゃあよろしく。課長には私からも連絡しておくわ」


それだけ言って電話を切った。


入社以来 仕事を『サボる』なんてはじめてのことで、なんだかすごくドキドキした。


私はその後、あの愛すべき中間管理職の課長に丁寧な謝罪の電話を入れて、晴れて自由の身になった。


日頃から真面目な私の仮病を、課長はまったく疑わなかった。


『課長ごめん!今日だけ!』


私は心の中で課長に手をあわせた。


今まで絶対休めないと思った日だったのに、意外なほどあっさり休めてしまった。


しかも普段の休みと違ってなんだかすごく得したようで気分がウキウキしている。


『お父さんが、休みをくれたんだよね』


二日酔いのだるさも吹き飛んで私は爽やかな気分で車に乗り込んだ。今から向かえば昼前には実家につけるだろう。





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