屈辱の苦情処理-11
ひきずるような足取りであいりがデパートの前に戻って来たのは夜9時をまわったころだった。
制服はところどころボタンがとれ、しわくちゃになっていた。
春とはいえ、ストッキングをつけていない素足に夜風の冷たさがこたえた。
トレンチコートの前を掻き合わせてボロボロの姿を隠し、社員通用口をくぐると、ちょうど三田村が退社しようとするところだった。
その爽やかな姿を見た瞬間、あいりの胸がキリキリと痛んだ。
「あ!あいりちゃんお疲れ!遅いからみんな心配してたんやで……………なんか…あったんか……?」
三田村はあいりの様子がなんとなくおかしいことに気付き、心配そうに顔を覗きこんできた。
「……あ、ううん。大丈夫。ちょっと話の長いお客様でさ……まいっちゃった」
あいりは慌てて笑顔を見せたが、三田村はまだ心配そうな顔であいりをじっと見つめている。
『……そんな目で見ないで……』
「……も、もう解決したから大丈夫なの。ほんとに!ありがと!」
涙が溢れそうになり、あいりは慌ててその場を走り去った。
「……あいりちゃん?……」
あいりが必要以上に明るく振る舞っているように見えて、三田村はその張り付けたような笑顔になんとなく不自然さを感じていた。
事務所に向かうあいりのか細い後ろ姿を、三田村はずっと見送っていた。
END