「超合体浪花ロボ・ツウテンカイザー」-1
西暦2121年
人類は火星を第二の故郷にすべく、テラフォーミングを開始した。火星の地球化、その最大の計画の一つが、マイクロウェーブ照射により、極地地下に眠る莫大な水資源を目覚めさせることであった。そして、火星、地球の両人類の見守る中、人工衛星によるマイクロウェーブ照射が始まった。しかし、マイクロウェーブの照射は水資源のみならず、地下深くに眠っていた異星文明をも目覚めさせてしまった。地殻変動と共に地上に姿を現す古代火星文明。そして、噴出する大量のエイリアンとその機動兵器。エイリアンの機動兵器は火星の移民施設を破壊し、宇宙ステーションなどを飲み込みながら地球圏に猛襲した。人類は急遽、宇宙防衛の要、宇宙第七艦隊をエイリアン撃退に差し向けるが、エイリアンのオーバーテクノロジーと圧倒的な戦力の前に敢え無く全滅。シェルターに非難して環境激変に備えていた火星移民者は地球との交信を分断され、孤立無援となった。押し寄せるエイリアンの群れに、絶望する火星移民者達。しかし、そんな移民者の希望の光となったのが、十文字雷蔵博士の造り上げた前代未聞の巨大ロボ、超合体浪花ロボ・ツウテンカイザーであった。ツウテンカイザーの搭乗者は十文字博士の娘、十文字ひよこ。そしてその親友、赤宮恭子。はたして、ツウテンカイザーは、ひよこは、そして恭子は、人類の救世主となりえるのか!?
薄暗いシェルターの中、一人の少女が拳を固く握り締めて立ち上がった。少女の名前は十文字ひよこ。ロボット工学の権威、十文字雷蔵の一人娘である。
「逃げ回っとっても、何も解決せえへんっ!!」
エイリアンの襲撃に疲弊した人々は、決然と立った少女を濁った目で見上げるが、誰一人、その言葉に賛同する者はいなかった。このシェルターにいる者は皆、火星人の襲撃を目の当たりにした者ばかりで、家族を失い、誰もが傷ついていた。そして今、地球との交信が途絶え、火星人はすぐ目の前の隔壁を破ろうとしている。少女の言葉に奮起する者など、誰もいはしないのだ。
「このまま何もせえへんかったら、あのザリガニみたいなエイリアンに皆、殺されるんよ?皆、それでええのん!?」
うつむき、顔を伏せる人々。中には殺気立った目を向ける者もいるが、戦う意志も無く、少女に筋違いの怒りを向ける者など、ひよこは恐れなかった。
「なんやのん?何で誰も答えへんのん?」
吊り上った目で周囲を見回すひよこ。
「駄目だよひよこ。皆傷ついているんだから…。第一、武器もなしにどうやってあのエイリアンと戦うって言うの?」
気まずい雰囲気を察し、ひよこの傍にいた女の子、ひよこの親友赤宮恭子が立ち上がる。
「武器ならある。うちがこのシェルターに逃げてきたんも、この奥の格納庫に、お父ちゃんの造った秘密兵器があるからや」
再び、拳を握り締めるひよこ。しかし、誰もその言葉に耳を傾けず、親友の恭子ですら訝しげに眉根を寄せる。
「ひ、秘密兵器…??」
「そうや。こんな事もあろうかと、うちのお父ちゃんが密かに開発しとった惑星開発ロボットがあるんや。その名も、超合体浪花ロボ・ツウテンカイザー!!!」
「な、浪花?…通天閣??」
あまりにセンスの無いそのネーミングに、頭を抱える恭子。しかし、ひよこは得意げに胸を張り、言葉を続ける。
「そのツウテンカイザーさえあれば、それを操縦する者は神にも悪魔にもなれるんやっ!!今こそ、そのツウテンカイザーを起動させて、あの珪素の塊みたいな虫けらどもを殲滅するんやっ!!」
気炎を吹き上げるひよこ。しかし、周囲の反応はやはり冷たかった。
「莫迦野郎っ!!地球の艦隊だって奴等に手も足も出なかったんだっ!!ロボットかなんだか知らないが、そんな物でエイリアンを撃退できるわけ無いだろっ!!」
突然、罵声と共にひよこのこめかみに空き缶が投げつけられる。
「なんやっ!!根性なしっ!!やらん前から諦めとって、どないすんねんっ!!あんたら金玉ついとんのかっ!!もうええわ。あんた等に手伝ってもらわんでも、うちらだけでやるっ!!」
激昂し、拳を振り上げるひよこ。こめかみから一筋血が流れ落ちるが、興奮しているひよこは気にする様子も無い。
「あ、あのう…、うちらってことは、私も頭数に入っているって事ですか?」
引きつった笑みを浮かべ、おずおずと尋ねる恭子。しかし、そんな恭子の言葉を、ひよこは切って捨てた。
「ツウテンカイザーは二人乗りなんや。うちはツウテンタイガーに乗るさかい、恭子はツウテンバッファローに乗って。大体、座して死を待つより、戦って死んだ方が何ぼかましやろっ!!」
言うや否や、ひよこは恭子の腕を掴んでシェルターの奥へのしのしと歩き出す。引きずられ、悲鳴をあげる恭子。
「うあ〜ん、私はどっちもいやぁあっ!!おかあさ〜〜ん!!」