非線型蒲公英-55
「はいはい…オイこら、ヘクセン。ハンカチを咥えながら顔から変な液体出してるなよ」
「へ、変な液体とは酷い!! 可憐さを演出する乙女の涙に対して言う言葉ですか!! およよよよよ!!」
「おかしな鳴き声を上げないで頂戴。耳障りだわ」
姉さんは、ちょこちょこと近寄ってきたサリィを片手であやしながら、ヘクセンに冷たく言い放った。
「姉弟攻撃ですか!? まるで威力は1.86倍ですよ!! もっと私をいたわって下さい!! 減りますよ!? 私が!!」
騒ぎながらも、言われたとおりに足をマッサージし始める。
ソファーにリラックスして寝そべる姉さんと、ブツブツと文句を言いながらマッサージをするヘクセンと、あと猫と―――。
「なんか…いいかもな、こういうのも」
俺は思わず、ポツリと呟いた。
「何か言った? 聡」
「いいや、何でもない」
こういう空気は、本当に、久しぶりだった。
0時過ぎ。
ベッドに横になって天井をじっと見つめながら、俺は、ここ数日のことを思い返していた。
思い出すまでもなく、色々と非常識な事が起きていた気がするのだが、まあ、それは今更となっては過ぎた思い出だ。
それよりも、明日は学校だ。そういえば宿題があったような…無かったような。まあ、その辺は和馬に見せてもらう事にしよう。
そうだ…燐ちゃんに、何で姉さんとあんなに仲良くなったのか聞かないとな…。流石に気になる。
ああ、それと、ひよちゃんに謝っとかないとな…。多分、もう気にしてはいないだろうけど…一応。
ふう…姉さんの機嫌がいつまであの調子かは解らないけど、出来ればずっとあのままでいて欲しい。俺のために。
「…それは、そうと」
俺は、右手を持ち上げて、それを思い切り振り下ろした。
「んぎゃぁ!!」
隣から変な悲鳴が聞こえた。
「ヘクセン。何で、俺のベッドに寝てるんだよ」
ふと気が付いたらいつの間にか隣に寝ていやがった。心霊現象の類かと思って、一瞬ビックリした俺が情けない。
「何でと言われましてもですね!! ベッドはここか、琴葉様のお部屋にしか無いじゃないですか!! だから!!」
「別にいいけどさ…ベッド広いから」
「おや!? 弟様!! もっとこう、ドキドキな展開にならないんですか!? 冷めてらっしゃる!! いや、枯れてる!?」
「誰が枯れてるんだよ…第一、機械にどうこうしたいとか、思えるかっての」
しかも眠いので、何か、どうでもいい。
「いやあ!! 世の中意外とそういう趣味の人は多いと私は思いますが!? 地球人口の3割はそんな感じですかね!?」
「いや…多すぎだろ…ふぁ…ねむ…おやすみ」
「ええ!? ホントに私には興味なし!? ショックを通り越した清々しい気分をさらに越えて感動が心を包み込んでしまいましたよ!?」
ヘクセンは、まだ何かをブツブツと呟いていたが、眠気も相まって、それすらも子守唄のように作用し、俺は眠りへと落ちていった。
ああ、全く、明日からどうなることやら―――。
―――まあ、なるようになるだろ…。