非線型蒲公英-51
「私、こそこそとされるのは嫌いですよ!? もっと、オープンに話し合いませんか!? そこなお嬢様!! アンド弟様!!」
「ゴメン、俺が悪かった。だから家に帰ってろ、頼むから…」
「ええ!? 私にここから一人で帰れと!? 折角、弟様との外出の喜びを肌で感じていたというのに…!! それでも帰れと!?」
「訳ワカラン…何でもいいから帰れ」
「ヒドイ!! こんな仕打ちを受けるなんて!! ロボットとは因果なものですねッ!! 嗚呼、悲しいですとも!! 悲しさの余り空を見上げてロマンチックに涙を零しますよ!? うああ…!! 私、機械なのに泣いてる!! ミラクルです!!」
らちがあかないので、俺達はヘクセンを無視してその場を去る事にした。幸い、俺達が去った事には気が付いていないようだった。いっそ補導されてしまえ、と、俺は天に祈った。
「ああ、今日も来たんだね…聡…」
コンビニのレジに立つ和馬は、客に取るべきではない態度で言った。
「うっさいな…ウチの食料の9割はコンビニ食だって、お前も知ってるだろ?」
「そうなのか、成る程。栄養が偏りすぎてしまったから、あえて男に手を出さずにメイドに手を出していたのか…深いな」
美咲もコンビニについて来ていた。こいつもコンビニに用事があったらしい。
「はいはい…ってか、将棋部の溜まり場かよ…このコンビニは」
昨日はひよちゃん…今日は美咲…毎日、俺…バイトで和馬。
「皆の住んでる場所からだと、ここが一番近いからじゃ無いかな?」
「そうかい。まあいいや、ハイ和馬、これ」
俺は棚から持ってきたハンバーグ弁当二つを和馬に手渡す。
「はいどうも…ええと、1050円になります」
財布を見る。当然、昨日貸してもらった1000円しかない。
「頼む美咲、50円貸して」
「人にたかるとは…見下げた男だな、遊佐間」
それでも律儀に貸してくれた。
「ありがとう、いつか返す」
「うわあ!! 出た!! 聡の『いつか返す』が!!」
「ん…どういう事だ? 笹倉、私は何か致命的なミスを?」
「聡の『いつか返す』は、『返す事は無いだろう』ってのと同義なんだよ…」
「人聞きの悪いことを言うネエ、和馬クン?」
流石に付き合いが長いだけあって、教訓を学んでいるようだ。
「まあ、50円程度なら、奢ってやらない事も無いが…」
「駄目だよ、美咲さん!! 僕も、そうやって『50円くらい』って、貸していって、総額6000円を超えたんだから…」
チッ…細かいヤツだ…。
「そうか…案外、苦労してるのだな、笹倉」
「あはは…そうだよね…聡の不幸の余波が僕に来るのは何故なんだろうね…? 僕、何か悪い事したかな…?」
「それはそうと、会計早く済ませてくれ」
何だか昨日と全く同じ展開になりそうだったので、さっさと退散する事にした。が、その時。
「うわああああん!! 置いて行くなんてヒドイ!! あんまりですよ!! 弟様!!」
入り口のドアを突き破りそうな勢いでヘクセンが入店してきた。
「なっ…ヘクセン、お前…!? どうしてここが!?」
「高機能すぎる私には、GPSが搭載されてるんです!! こんなちんけなコンビニの場所くらいなら1秒で解りますよ!!」
ホントに無駄に高機能なヤツめ…姉さん、厄介すぎるよ、コレ…。