非線型蒲公英-50
現在5時半。
あの後、悠樹が『あ、お母さんと買い物に行く約束してたんだった!! じゃあね、聡君』と言い残し、どこまでもマイウェイな感じに帰っていったので、俺が作りかけの化学兵器を処理しなくてはいけなくなった。
いい匂いを漂わせる料理のようなモノを、容赦なく俺が捨てようとしたのだが、ヘクセンに『勿体無いですよ!?』と、散々騒がれ口論となり、俺は小一時間ほど『悠樹の料理の危険性』について語った。
結局、ヘクセンが折れる形となって、処理は一応の成功を収めた。
それで、気が付いたら5時を回っていたのだった。
悠樹から聞いた姉さんの言葉が脳裏に蘇る。
『夜には帰るから、夕食を用意しておきなさい』
夜。姉さんの言う夜とはいつの事を指すのか…。とにかく、帰ってきた時に夕飯がなかったら、俺の身に危険が及ぶ。それはマズイ。
ということで、早めに家を出て、コンビニに弁当を買いに行く事にしたワケである。
「しかし…視線が痛いな…」
「いやぁん!! 私の素晴らしいボディーに皆釘付け!?」
半分は間違っていない。
「いや…メイド服が…」
いくらあまり人気が無い道とはいえ、通行人がいない訳ではないのだ。メイド服なんて酔狂なものを着ている姉ちゃんがいたら、そりゃ好奇な目で見られるのも当然だ。
荷物持ちに使おうと思って連れてきた俺が馬鹿だった…。
「ああなんて罪な女!! 見られる悦び!! 気分はまるで舞台女優!!」
ヘクセンは悦に入った表情でのたもうた。
「頼むから黙れ…警察に補導されそうだ…」
知らないフリをしようかと思ったが、ぴったりと俺の後を追っかけて来ているので、それは無理だった。
「はあ、まいった…コンビニはまだか…って、アイツは!!」
ふと前を見た俺は、ヤバイ人物を発見してしまった。
「おい、ヘクセン!! ちょっと、こっちに!!」
慌ててヘクセンの腕を引いて、横道に入る。
「うわああぁ!! な、どうしたんですか!? 弟様!! ま、まさか!! こんな所で…!? いやぁん!!」
「するか!! ボケ!! いいから、ちょっと黙れ…!!」
言うが早いか、俺はヘクセンの口を塞いだ。
「…んふぅーっ!!」
ふがふがと、手の下で何か騒いでいるようだが、知った事ではない。
が、俺の努力むなしく、件の人物は、横道の電信柱の影に隠れた俺たちをあっさりと見つけ出してしまった。
「遊佐間…お前…そういう属性持ちだったとは…いや、邪魔をした。すまん…」
しかも、意外とあっさり、予想外の反応で返してきたのでさらに焦った。
「お、おい!! 美咲!! 違う!! 変な誤解をするな!! すまなそうな顔をして去ろうとするな!!」
「だ、だが…最中を邪魔するのは、悪いからな…」
「だから違う!! 顔を赤らめるな!!」
「いや…しかし、私には遊佐間がメイドを襲っているようにしか見えないのだが…」
確かに。そう見えるかもしれない。
「いざ、実際にそういう現場を目撃すると…アレだな…非常に気まずいものだな…」
「勘違いするな…コイツは人間に見えるけど人間じゃ無いんだ!!」
思わず意味不明な言い訳をしてしまう。
「ゆ、遊佐間…? そうか、そういう設定のメイドなのか…お前、実は深いのだな…」
「設定とかじゃなく、コイツは姉さんの作ったロボットで…」
「ああ、解った。お前の夢は壊すまい。私は否定しない。お前がメカ+メイド属性を持っていたという事実は、私の胸の内に秘めておこう」
何故か、ドツボにハマッていってる気がするのは気のせいですか…?
「だから違うって言ってるだろうが!! 話を聞け!!」
「すまん…私はヤオイは好きだが、その手の話題は…ちょっとな。そういう話題に付いて行ける自信が無い…だが、カナならば、あるいは」
「真面目に困るな!! そして、さらに話をこじらせようとするな!!」
「ん〜っ!! ふむぅ〜ッ!! ぷはっ!! ああ〜!! 苦しかったですよ!! 死ぬかと思いましたッ!!」
マズイ、油断して手を離してしまった…。
「つうか、お前、呼吸してるのかよ?」
「え? ええ!! もちのロンですよ!! なんてったって、酸素燃料+光充電+補助電源で動いてますから!! ああ、どこまでもハイテクな私!!」
その時、俺は美咲にくいくいと袖を引っ張られ、耳打ちをされた。
「おい、遊佐間…そのメイドさんは、アレなのか? 大丈夫じゃ無い人か?」
「お前に言われたら…お終いだが…まあ、駄目だという点は否定できない」
さっきから、どうもよそよそしいな、と思ってたら、そう言えば美咲は人見知りが激しいんだっけ…。コレはコレで新鮮だな…。