非線型蒲公英-49
「やめろーっ!!」
「あ、聡君、おはよう」
朗らかに微笑み、毒を生産している。悪夢のような光景だ。
「それ以上、作るのはやめてくれ!! 頼むから!!」
「大丈夫だよ、今日のはきっと美味しく作れてる気がするから」
絶対有り得ない。
「ソレ、どうする気なんだ?」
「え? 聡君のお昼ご飯だよ? 琴葉姉さんが『聡にご飯を作ってあげて』って言ってたから」
姉さん…あんたは…。
「そうかい、それで、そう言い残した姉さんは何処に?」
「ええと『夜には帰るから、夕食を用意しておきなさい』って、どこかに出かけちゃった」
「はぁ、どうでもいいけど、ソレ、俺は食わないぞ」
「えー…せっかく一生懸命作ってるのに…」
「じゃあ、俺はいいから、あいつに食わせてやれ」
そう言って、俺は、丁度キッチンに入ってきたヘクセンを指差した。
「え!? 何ですか!? 人をいきなり指差して!! 失礼な!!」
黙れ、元『棒』の分際で…。
「そうそう、聡君。起きたら聞こうと思ってたんだけど、この人誰?」
姉さん…説明してなかったのか? ああ、そうだよな…弟の不幸が楽しくてしょうがないヒトだもんな…姉さんは…。
「あー…コイツは…何だ?」
俺が、一瞬答えに迷っていると、
「あら? もしかして修羅場!? おねーさん、修羅場に巻き込まれるの初めて!! いやぁん!! ドキドキ!!」
これは、本当に機械か? 何だ? この頭の悪さは…。壊れてるのか?
「断じて違うッ!!」
「この人、聡君ちのメイドさん?」
確かに、格好はそうだが…もし本当にそうでも、即刻クビだ。こんなの。
「メイドじゃ無い、ただの棒だ」
「棒!? 弟様!! 今、私のことを何と表現しましたか!? こんな立派な姿が!! 弟様には棒に見えると!?」
キレたよ…棒が、キレたよ…。
「はいはい、ヘクセンって呼べばいいんだろ?」
「そーです!! そう呼べばいいんですよ!! 初めから!! 全く、棒だなんて、失敬な!!」
余程、『棒』にコンプレックスがあるらしい。
「ヘクセン…さん? ええと、どこかで会いませんでしたか?」
急に、変な質問をする悠樹。
「え? 初めて…じゃないですね!! 昨日、マスターの近くにいた人ですね!?」
パンッ、と、胸の前で手を合わせて、はしゃぐヘクセン。
成る程…棒の頃に会ってたのか。
「マスター…? ああ、ヒントのお姉さんだ!!」
「ヒントのお姉さん?」
なんじゃそりゃ、とヘクセンに視線で問うた。
「ええと、マスターの下で働く時はヒントしか言っちゃいけないって言われてたんですよ!! 琴葉様に!!」
ああ、そう。どうでもいい理由だな…。
「とにかく、だ。ヘクセンが悠樹の作ったもの食ってくれるってさ」
話を戻す。多分、機械だから何を食っても平気だろうし。
「駄目ですよ!! 弟様!! 私、物を食べれる仕様になってないんですから!! それに、好き嫌いはいけないと思いますッ!!」
「好きとか嫌いとか、そういう次元の物質じゃ無いんだけどな…」
「ひどいよ、聡君…一生懸命作ったのに…そんな事言う」
悠樹は涙目になった。が、ここで俺が譲歩する事は出来ない。命がかかっているのでな…。
「そんなに美味く出来たというなら、自分で食え」
「え? やだよぉ、そんなの」
こ、この馬鹿は…。
「自分で食えないものを人様に食わそうとするな!!」
「ワーオ!! 弟様!! ちゃぶ台があったらひっくり返しそうな勢いですね!!」
「じゃかあしい!! この棒!!」
「あああ!! 棒って!! また棒って言った!! どこまで侮辱すれば気がすむんですか!!」
…結局、この口論は、2時を回る頃まで続いた。