非線型蒲公英-38
近づいてくるのは桜花の死神。無様に薙ぎ倒された蒲公英の、唯一の力であった剣も、遥か遠くの地面に所在無さげに突き立っている。残された道は余りにも少ない。
(このままでは…せめて、回避を…!!)
すぐさま『レーヴェンツァーン』を立ち上がらせ、回避行動を取る。が、既に間合いは『キルシュブルーテ』の有効射程内。故に、その回避行動も気休めにしか過ぎなかった。
獣の咆哮の如く、『キルシュブルーテ』のバルカンが火を噴く。先程とは違い、狙い違わず弾丸の殆どが、正確に『レーヴェンツァーン』の装甲を貫く。
(…っ!! 被弾!! でも、まだ動きます!!)
数瞬の後、何とか射程内より離脱出来たものの『レーヴェンツァーン』の受けた被害は相当なものであった。
(右腕は…もう、無理ですね、反応が無い…ブースターも肩と右足の物は、もう使い物になりませんね…それに、何より全体の反応が遅くなってしまっている…受信装置にもダメージが…?)
冷静に分析するが、頼みの綱のブレードが失われてしまった今、総合的な火力で劣るこの機体に、果たして勝つ術はあるのだろうか…? 燐の脳裏に絶望の色が広がっていく。
「…す、ごい…」
砂煙を上げながら距離を保っていた二機が、一瞬ともいえる時間の中で見せた激しい攻防。その光景に、妃依は圧倒されていた。横の二人も同様である。
「で、でもこのままじゃ、燐ちゃんが負けちゃうかも…」
燐の機体が攻撃したはずなのに、何故か吹き飛んだのは燐の方で、琴葉の機体は全く無傷という、それこそ魔法のような光景。もちろん、それがERAという装甲の効果である事など、三人には知る由も無かったのだが。
「まずいのう…」
倒れていた機体も、発砲の直前、すぐに起き上がり、超人的な動きで斜線を外しつつ離れていった。が、しかし、それでも燐の機体には無数の弾痕が穿たれたように見える。
勝敗は決するかと思われた、その時。
『呼ばれてないけど、じゃじゃじゃじゃ〜ん!! なにやら重たい空気でピンチを表現していたので、おねーさん、心配で心配で…ヒントを教えてあげなきゃ夜も眠れなくなっちゃいそうだわよ!! マスター!!』
いきなり、そして、暫くぶりに現れた(とはいえ声だけだが)ヘルプお姉さんは、何故か今まで以上にハイテンションになっていた。
「…な、こんな時に何ですか…」
『勝負に敗れ、命からがら逃げ出した!! しかし、もう後は無い!! 容赦なく迫り来る敵の影!! 今世紀最大の危機!!』
もの凄く芝居がかった抑揚をつけて、ヘルプお姉さんはのたもうた。
『そんな時は必ず横合いから味方が現れて、助けてくれるモノでしょう!? マスター!!』