非線型蒲公英-28
夕食の片づけが終わり、TVの前のソファーに腰掛けているのは宣言どおり、妃依と悠樹と猛の三人である。
妃依は相変わらず番組の内容には興味は無かったし、昨日のようにチャンネル権を巡る口論が起きる事も無かったので、現在TVに映っているのは悠樹と猛の同意した番組という事になる。
「…でも、何で時代劇…」
「いやはや、まさか杵島もコレを見とったとはなぁ!! 奇遇じゃのう」
「お母さんが好きだから、一緒に見てるうちに面白くなってきたの」
「…はぁ、変わってますね、二人とも」
興味の無い番組を眺めつつ、身体をソファーに深く沈めてリラックスしていると、居間の方から、
「フハハハハハハハ!! 行け、『スピリットモンガー』!!」
と、かなり熱の入った感じに叫んでいる聡の声が聞こえた。
「甘い、甘いよお兄ちゃん!! 『アフターライフ』でそいつを破壊!!」
かなり興奮気味の沙華の声まで聞こえる。
「ば、馬鹿なァァァァア!!」
「…」
一体何をやっているのだろうか…凄く気になったので、TV鑑賞も程々に席を立った。
「…一体何をしてるんですか、騒がしいですよ」
居間へ向かうとテーブルを挟んで何やらカードを並べている聡(流石にもう服は着ていた)と沙華の姿が目に入った。燐はその二人を横で見ているようだった。
渦中の二人はこちらに気が付いていないようなので、妃依は燐に声をかけた。
「…燐ちゃん、これは何をしているの」
「あ、妃依ちゃん…これは、その、TCGというものです…」
「…ティーシージー…って」
聞きなれない単語に怪訝顔になる妃依。
「トレーディングカードゲームのことです」
「…成るほどね」
聞いた事くらいはある。だが、やっているのを見たのは初めてかもしれない。
「『アバターオブホープ』、攻撃!!」
「ぐぁ…ヤバイ…あと5点しかない…」
何を言ってるのか全く解らなかったが。
「…燐ちゃんは理解して見てるの、これ」
「ええ、一応は」
「…どっちが勝ってるとか、解るんだ」
「現在、遊佐間先輩のライフが5点、沙華ちゃんのライフが3点ですが、沙華ちゃんの方がクリーチャーの数で圧倒的に勝っているので、どちらかと言えば沙華ちゃんが有利ですね。遊佐間先輩は手札も土地も少ないですから…でも、まだ逆転の余地はありますけれど」
「…ごめん、さっぱり解らない」
元来、妃依はややこしいものが苦手なので、こういった複雑なルールのゲームはあまり好まないのであった。
「フ、フハハハハハハ!! 来た!! 『ボッグエレメンタル』!! コレなら勝てる!!」
「えー!? プロテクション(白)!? 何でそんなのが入ってるのよー!!」
「ハハハハハハハ!! 白対策だよ!! ハッハッハッハ!!」
訳がわからない。何が何の対策なのか、どれが何なのか、理解不能だ。
眉間にしわを寄せ、首を傾げながらも、暫くその対戦とやらを見ていたが、一向に要領を得ないので時代劇鑑賞に戻る事にした。まだ向こうの方が…いや、どっちもどっちか…。