非線型蒲公英-26
「…来ないか?」
「わ、ワシはこういう空気は苦手なんじゃが…」
「いや、言い直そう、来い」
「無理じゃ!! おなごと一緒の部屋で寝泊りするなんぞできん…!!」
「って、流石にそこまではないと思うが…」
「そ、そうか? いや、それでも…ワシは…」
と、そんな俺たちの様子に気が付いた燐ちゃんが声を掛けてきた。
「あ…猛先輩もいらっしゃいませんか? 折角ですし…」
それを聞いた猛は、
「そうじゃな、行っても構わんぞ!!」
ハキハキとした声で答える。
「お前、現金過ぎ…まあ、助かったけど」
こうして、俺たちは笹原家にて小合宿とでも呼ぶべきお泊り会を決行することとなったのだった。
「いや…確かにな、それしかないというのは解るんだけどな…飽きないか?」
何に? というと、人生ゲームにである。
各自お泊りセットなる物を持参し(俺以外)、笹倉家に全員集合したのが6時半を少しまわった頃。それで、集まったものの、何をしようか、という事になり満場一致(俺以外)で決定したのがソレという訳だ。
「というか、さっき部室で散々やっただろ? 他の事したいとか思わないのか?」
皆が準備を進める中、一人力説する俺。決して、俺が人生ゲーム苦手だから、やめさせようとか思っている訳ではない。恐らく。
「…まださっきの事、根に持っているんですか…たかが二億円くらいで」
ひよちゃんがボソっと呟いた。聞き逃す事は出来なかった。
「フ、俺がそんな小さい男に見えるのかい? ひよちゃん」
「…そのキャラやめて下さい、微妙です」
こちらを振り向きもしないで言い放つ。そりゃないぜぇ…ひよちゃぁん…。
「そうだ、こうしよう、俺が初めから10億所持した状態から始めるって言うのはどうだろうか」
俺が素晴らしい案を提示する。が、
『…』
無視か…そうか…そうかよ、チクショウ…。
「よーし、じゃあ、始めはさっき負けた遊佐間からじゃ!! ほれ、突っ立って無いで早く回さんかい!!」
結局仕方ないので参加した。寂しさに屈したわけではない。そうだ、そんな訳無い…。うおぉん…。
7時を過ぎたあたりで、ようやく食事の準備という事になった。俺以外が皆、渋り顔なのは、早々に破産した俺が『腹減ったな…』とか『そう言えば夕飯は…?』とかぶつぶつ呟いていたのが原因かもしれない。なんにせよ、人生ゲームは人を卑屈にさせる嫌なゲームだ。
台所で6人分の食事を用意しているのはひよちゃんと沙華ちゃんだ。初め、悠樹も『あ、私も手伝うよ?』なんぞとほざいていたのだが、俺が羽交い絞めにして止めた。
それで、現在居間には麻雀が出来る4人が居る訳だ。さてどうするか、なんて決まりきっていた。
「麻雀でもするかの?」
猛がやはりそう言った。
「じゃあ、脱衣麻雀という方向でどうだろうか?」
ピンで燐ちゃんを狙おうというのが俺の思惑である。ちらりと、猛とアイコンタクトをとる。
「…じゃ、じゃが、そんな破廉恥なルールではな…」
心揺れているようだ。堕ちてしまえ…。
「私はさんせー!! リンリンは? どうするの?」
「え、と…か、構いませんけど」
よし、ナイスだ悠樹。これで問題は無い。
「ほら、腹をくくれ、後はお前だけだ」
「し、仕方ないのう…やってやるわい!!」
その時、俺は対面の悠樹の目が、爛々と輝いていた事に気が付きもしなかった。
「お兄ちゃん!! 何で裸になってるのよ!! ふ、服着てよ!!」
台所から戻ってきた沙華ちゃんが悲鳴じみた声を上げた。
「…今日は特におかしいとは思ってましたが…遂に壊れましたか」
ひよちゃんは呆れを通り越したような声音で感想を口にする。
「俺だって、裸になりたくて脱いだわけじゃ無いんだ…うぅ」
「だって、聡君、リンリンを狙ってるのがバレバレなんだもん、駄目だよ、そんなの」
「あ、有り難う御座います…助かりました、悠樹先輩」
「ふん、自業自得じゃな」
き、貴様…途中まで志は一つだったはず…。卑怯な。
「…脱衣麻雀でもやってたんですか、ひとが料理を作ってる時に」
「もぅ!! そんなことはいいから、服着てよ!!」
俺はしゃがみ込んだまま、ちらりと、悠樹たちの方を見る。
「タオルならいいよ?」
クソ…こんな展開、誰が認めるんだ…。