非線型蒲公英-2
「あ、こんにちはです」
「ん、うっす」
「…こんにちは」
と、軽めの挨拶を。で、本題。
「いきなりなんだけど、燐ちゃん。金貸して」
「…馬鹿ですね、先輩」
だが、直線な俺の想いに、燐ちゃんは、
「あ、はい、どうぞ。持ち合わせ、三千円くらいしかないんですけれど…これでよろしければ」
「…燐ちゃん、少しは先輩を疑って」
だが、ためらい無く頂く俺。
「おーおー、サンクス、サンクス。持つべきものは後輩アルネ」
「いえいえ、わたくしなど、この程度でしか先輩のお役に立てませんから…」
「…外道」
ひよちゃんの言葉を聞き流し、俺は、がしっと燐ちゃんの手を掴む。
「で、出来れば、今夜、燐ちゃんの部屋に泊めて欲しい」
「え」
「…本気だったら殺しますよ」
そ、そんなに怒らないで、可愛いお顔が台無しヨ?
と、その時、悠樹の声が部室に響く。
「っぁ、あ、ふぁ、はっぁ、ぃやぁ…さとしくぅん…」←独りエクスタシー。
「…聡先輩、実は悠樹先輩に手を出したことがあるのでは」
「無い、絶対無い。だって怖いもん、これ」
「う、うわ、すご…ぃ、ですね、悠樹先輩…」
頬を紅潮させる燐ちゃん。
「アーッ、アーッ! 駄目! 燐ちゃんはこんなの見ちゃ駄目だぞ! 不純がうつるから!」
「…あの、私は」
「ひよちゃんはもう結構、アレですからな、ある意味」
「…殴りたい」
「っはぅ、いたいよぉ…もっとやさし、くぅ、してよぉ…あ、はぅっ」
「このヴォケは…いつまでやってんだか」
俺は悠樹をロッカーに押し詰めた。
「暗くしないでよぉ、こわいよぉ…あぁん」
あほの声が聞こえてくるが、無視。
「さて、と。では今日の寝床の確保をせねばな」
「…私と燐ちゃんの部屋は駄目ですよ」
「っく…じゃあ、他に誰に頼れと」
「…香奈先輩とか美咲先輩とか猛先輩とか司君とか…」
「や、やだなあ、あいつら揃いも揃って変人ばっかじゃないか」
「誰が変人じゃと? ゴラァ」
濱野猛だ。いつの間に…。
「いや、変だよ、お前。ねぇ? 燐ちゃん」
「え、え? わたくしに聞かれましても…」
「…確かに、生きてる時代が少しずれてますよね、猛先輩って」
代わりにひよちゃんが答える。
「ふん! 宍戸よ、ワシから言わせてもらえば、十分きさんも変じゃ」
す…っとひよちゃんの周りの空気が冷たくなった。
「…へぇ、それは、どうも、ありがとう、ございます、猛先輩」
フフフ、とやばい笑みを浮かべている。こええよ。
「はっはっは! やっぱり変な奴じゃのう、礼をいいよったわ」
この空気に気付け、死ぬぜ…?
「…殺」
俺はあわててひよちゃんを連れて部室を出た。
「…放してください、猛先輩を殺」
口を押さえる。
「部室で殺傷はやめてくれ。たのむから、怖いから」
「…じゃあ、帰り道で」
「やめなさい、やめなさいって」
「…ふぅ、もういいですけど」
「あー、そうだ、ひよちゃん。今、暇?」
「…暇も何も、先輩に引っ張られて来たんですけど」
「まあ、そうだね。でも、部室にいたって何もすること無いでしょ」
「…はぁ、たしかに」
実際、将棋部とは言っても、まともに将棋が出来るのは部長の杵島悠樹と副部長の笹倉和馬だけだ。他の部員では勝負にすらならない。しかも、悠樹がアレなので半ば活動内容が崩壊している。やりたい放題だった。