非線型蒲公英-18
三時間目。
結局、悠樹は着替えを持ってきていたため、水着のまま授業を受けるということもなく、普通の英語の授業風景。
(あー、なんか疲れたな…ねむ…)
きっと英語の響きには催眠効果があるのだろう。だんだん意識が薄れていく。
「…ハイ! ネクスト、ユサマクン、ヨンデクダサーイ」
俺を呼ぶロナルド先生の声が聞こえる気がする。夢だろう、きっと。
「ユサマクーン! ドウシマシタカー?」
「うるさい…」
何でよりによってロナルド先生が夢に出てくるんだよ…。ムサイなぁ。
「ティーチャーニムカッテ、ウルサイハナイデショー!」
「お、おい、遊佐間。やべぇよー、起きろよー」
この期に及んで高沢の声まで聞こえる。嫌な夢だ。
「ウザイ…」
「アクマデモ、ハンコウテキナタイドヲトリマスカー? イイデショー! アンダスターン!」
ロナルド先生が教科書を机に置き、タンタンと軽快なステップを踏み、腕を円を描くようにして動かし、特殊な呼吸法を開始した。
『あ、アレが出る…!!』
クラス全体(悠樹と聡以外)が戦慄した。
「ロナルド・グレイトフル・マーヴェラス・ライトニングキーック!!」
ロナルド先生が、華麗に激しく空を舞う。先生は放物線を描くように飛び、聡を強襲したッ!!
ゴシャッ!!
「アウチッ!!」
しかし、その足が聡の顔面にめり込むかと思われた直前。ロナルド先生は身体をくの字に折って横に吹っ飛ばされると、そのまま窓ガラスを突き破り【注)ここは三階】、下にあった自転車置き場に落ちた。ガラガラガシャンと派手な音が響く。
『…』
呆然となるクラス(悠樹と聡以外)。
その状態から、いち早く回復した、委員長こと中根希は、先生の状態を確認すべく窓際に向かった。
「せ、先生! 生きてますか!?」
だが、見下ろした自転車置き場には、先生の姿は無かった。が、代わりに一本の丸太(五メートルくらいの)があった。その丸太に無残にも踏み潰された二十台近い自転車がその威力(何のだ)を物語っているように思われた。
「フゥ、アブナカッタデース…アトワンセカンドデモオクレテイタラ、ウミノモクズトナッテマシター」
何事もなかったかのように、普通に入り口から入ってきたロナルド先生が言う。
「生きてらしたんですか…」
希がほっと溜息をつく。
「カワリミノジュツヲツカイマシター、コンナコトハ、シックスイヤーズブリデース」
言って、またステップを踏み始める。
「ネクストハアリマセーン、WRYYYYYYY!!」
再び、ロナルド・グレイトフル・マーヴェ(略)を放つロナルド先生。
ドゴォォォッ!!
「ナンデストォー!!」
が、やはり寸前で吹き飛ばされ、今度は窓際に立っていた希も巻き込み、五十メートル位先の体育館の屋根に落ちて、突き破った。
『い、委員長ー!!』
クラス(悠樹と聡以外)が騒然となる。
「お、おい…遊佐間、お前何したんだよー…」
ゆさゆさと聡を揺すって、起こそうとする高沢。すると、
「うひょーぉぉぉぉ…」
と、綺麗な弾道を描いて吹っ飛ばされ、先程、先生と希が屋根に落ちたときに出来た穴に吸い込まれていった。
途端に聡の周りの席の生徒が、机ごと後退った。そして、チャイムが鳴るまで誰一人として(悠樹以外は)動かなかった。