非線型蒲公英-15
プールサイドは悲しい。俺も水の中で戯れたい。何で目の前に餌をぶら下げられて、俺だけがお預けをくらうんだ…?
「はぁ…せめて、じっくり観賞しますか…」
体育座りでボケっとしていた俺は、プールの中の女子の塊に目を移した。
「遠いな…双眼鏡欲しいなぁ…おっと!」
手で双眼鏡を作って見ていると、ふと、目の前を水着姿の女子が通り過ぎた。
「おー、いいねぇ…」
俺の前を通り過ぎたその女子は、水泳帽を取り、長い黒髪をおろした。濡れてしっとりとした感じが何とも艶めかしい。背も高く、プロポーションも悪くない。俺は暫くその女子に釘付けになっていた。
「…腰から尻にかけてのラインがたまらんな…」
おっさんみたいな感想を口にしていると、それが聞こえたのか否か、その女子が振り返りこちらに向かってきた。
「あ…やべ、聞こえてたか…」
俺が言い訳を考えているうちに、その女子はかなり近くまで来ていた。俺の前で立ち止まる。
「あー、その、今のは悪気があった訳じゃ…」
と、なるべくすまなそうな顔をして女子の顔を見上げて、俺は自分の愚かさを呪った。
「ふむ、では私の腰から尻にかけてをじっとりと舐めるように見ていたのは、近くに男がいないことへの腹いせか? ククク…」
その女子、美咲は手の中の水泳帽を弄びながら、邪悪な笑みを浮かべた。
「ぐお…一生の不覚だ…!!」
俺は頭を抱え込んだ。そうだ、合同授業だから、こいつのクラスもここに居たんだった…。すっかり忘れてた。
「まぁ、男は常に飢えた獣だからな。思わず、私の様な無防備な獲物に牙を向けたくなるのは分かるがな」
もう一度、俺は美咲を見る。悔しいが、かなり綺麗な身体付きをしている。くそ…。まじまじと見るな、俺。見たら負けだ…。
「そ、そうだ。何でお前、水着持ってるんだよ。昨日の今日でさ」
「ん、着ていた」
こいつもかよ…。
「制服の下にスクール水着というのは、なかなかに背徳的だからな。機会があれば、なるべくそうしているのだ」
「何が、背徳的なんだか…」
こいつといい、悠樹といい、一体何を考えて生きてるんだろう。
「そうだ、着替えはどうするんだよ、まさかその上に制服着るわけじゃないだろ?」
悠樹なら、濡れた水着のまま授業を受けていても不思議じゃないが…。
「大丈夫だ、代えの水着は常に持ち歩いている」
「何で代えも水着なんだ…?」
「ん、なんだ? 下着の方が萌えるとでも言うのか? 遊佐間は」
「いや、そういう問題じゃないだろ」
「そうだな、女の事などより男の事の方が大事だからな、お前は」
「違う…」
疲れる。いくら見た目がよくても、これじゃあな…。
「美咲ちゃーん! さとっちと楽しそうにしてるとこ、ひよりんに見られたりしたら、大変だよー?」
来た…。頼んでもいない追加が。
「そ、そうだな、それはまずい」
美咲は急に身構えて校舎の方を見る。とはいえ、教室の窓が面しているのはこことは反対側だから、見られることは無いと思うのだが。
「お前ら、こんなとこで俺を構ってないで、元気に泳いでろよ…」
「だってー、美咲ちゃんの水着、私とはサイズ合わないからちょっとゆるくてー。隙間から水が入ってくるんだよー」
まだあったのか、こいつの代えの水着とやらは…。
「そうか? 大丈夫だと思ったのだがな」
「胸の大きさが、美咲ちゃんとは違うのだよー、美咲ちゃんとは」
「はは、確かに…な」
と、俺は無遠慮に美咲と香奈の胸を見比べる。ソフトボールとドラ焼きくらいの差がある。無論小さいのは香奈だ。
「あ、さとっちが馬鹿にしたー!! ひどいよー!! ユウちゃん連れてきちゃうぞー?」
「悪かった、謝るからやめてくれ、それだけは」
これ以上事態の収拾が付かなくなるのだけは勘弁してもらいたい。