非線型蒲公英-14
「じゃーん、どう? セクシー?」
すっかり水着姿の悠樹は、腰と後頭部に手をそえ、よくある『セクシーポーズ』をした。
「うん、似合ってると思うよ」
和馬が微笑む。爽やか変態だ。
俺も悠樹をじっくり見る。和馬の言うとおり、確かに客観的に見ればコイツもかなり良い方なのだろう。だが、俺主観で見ると、やはりコイツはあくまで悠樹なのだった。性格が分からなければな…この笑顔もさぞ可愛く見えるだろう。しかし、俺には気の緩んだ馬鹿の顔にしか見えない。
「聡君は? どう?」
「あ? 普通だろ」
「ひどーい…折角見せてあげたのに…似合ってるとか、可愛いよとか言ってくれない…」
「はいはいにあってるかわいいよ」←棒読み
「あは! ありがとー!」
「今ので喜ぶなよ…」
やっぱり馬鹿だ、コイツは…。
二時間目は笹倉沙華の苦手な物理だった。そのため沙華は少し憂鬱な感じで物理室に向かっていた。
ふと、今通りかかった、がらんとした二年五組の教室の中から声が聞こえた気がした。
「ここ、兄さんと、お兄ちゃんのクラスだっけ」
幸い(?)少し戸が開いていたので、好奇心から中をこっそり覗き見た。
「っ…!!!!」
(兄さん(和馬)と、お兄ちゃん(聡)が水着姿にされた部長(悠樹)を囲んで、何やらいけない事をしようとしてる…!!)←曲解
「ち、ちょっと、兄さん、お兄ちゃん、駄目よ、教室でそんな…!!」
がらっと勢いよく扉を開け、教室に駆け込む沙華。
その音に驚く和馬と聡。(沙華には二人が狼狽したように見えた)
「いくら部長さんがいい人そうだからって、こんな格好させて…最低!!」
「な、なんで沙華ちゃんが…?」
「何? 私がいたらまずい様な事をしようとしてたの!? お兄ちゃん!!」
「いや、沙華、それは誤解だよ」
俺の代わりに和馬が答える。
「兄さんは黙ってて!!」
「は、はい…」
が、こいつは沙華ちゃんには頭が上がらない。駄目な兄貴だ…。
「あ、サヤちゃん! 見て見て、似合う?」
悠樹は、まるで状況を理解せずに言った。
「え、ぶ、部長…。それ、無理やり着せられたんじゃ…」
「違うよ、私が見せてあげてるのー! ね、似合う?」
「あう…似合ってます」
どうやら意気消沈したようだ。こういう時だけは悠樹のマイペースが役に立つ。
「沙華ちゃん…俺がコイツに何かすると思うか? むしろ俺がされる方だろ…?」
「そ、そうだね…お兄ちゃん」
「誤解は解けたかい? 沙華」
「もう、兄さんがやらしい顔してたから勘違いしちゃったじゃない」
「そ、そんな顔してたかな…?」
「確かに、和馬の爽やかさは、いやらしさと同義だからなぁ…」
「さ、聡まで…酷いなぁ」
「…ね、それより、いいの?」
いきなり後ろから声を掛けられ振り向くと、悠樹は既に制服を着ていた。早いな…着替えるの。
「何がだよ」
「休み時間終わっちゃうよ?」
「え? あぁー!! 物理!! 遅れちゃう!! じゃ、部長、失礼しました!!」
言うが早いか、脱兎の如く駆けていく沙華。
「何だったんだ…結局」
「沙華はともかく、僕達も急がないと。悠樹さんはいいけど、僕達は着替えないといけないだろ?」
言われてから、あることに気付いた。
「あ、俺、水着持って来てないじゃん…」
昨日の今日だから、当然だった。