非線型蒲公英-13
さっきからやたらと俺の周りでフラッシュが焚かれている。ニヤニヤした表情の美咲が俺の周りをぐるぐる回りながらデジカメで写真を撮っているせいだ。
「ウザいぞ…かなり」
「まあ、気にするな」
「本が売れたら、さとっちに何か奢ってあげるからー、がまんしてよ」
「助けて、ひよちゃん」
「…助けて、と言われましても…」
異様な空気を放つこの集団に近寄る勇気は無かった。
「遊佐間、出来れば『苦しい』表情だけでなく、『痛気持ちいい』表情をしてくれないか?」
「いたきもちいいって、なんだそりゃ…」
「別に『恍惚とした』表情でもかまわんが」
「何なんだよ、その変態じみた注文は!」
「もー、美咲ちゃんはストレートなんだからー」
「そうか、やはり面と向かっては駄目か」
「そうそう、やるならこっそりと、本人のあずかり知らぬ所でやらなきゃ」
「クク…そうだな、風紀委員たる者、隠れてタバコを吸う男子学生捕縛のためなら、男子トイレに入ることもためらわん、ついでに状況証拠を得るための写真撮影もな。その際、仮に不適切な写真が撮られたとしても、それは仕方の無い事だ」
「やめてくれ、犯罪行為は」
「なんだ、どうした遊佐間。まさかお前、トイレで喫煙を…? いかんな、身辺を張り込むしかないな」
「…ひ、ひよちゃん…」
「…私には、どうする事も」
心なしか、先程よりも離れている。視線もこっちを向いていない。『関わりたくない』と態度が語っていた。
結局、その撮影会のせいで、学校まで徒歩五分の道のりに二十分もかかってしまったのだった。
司を保健室まで連れて行き、先生が不在だったので、半ば放り投げるようにベッドに寝かせて来て、教室まで来たらちょうど一時限目の休み時間だった。皆何故かぞろぞろと教室を出て行くようだったが、とにかく俺は疲れていたので背を丸めてぐったりと自分の机に突っ伏していた。
「あー!! 遅刻者はっけーん!!」
馬鹿が走って近づいてくる気配がする。放って置いて欲しい。ホントに。
「ねー、聡君、どうして遅刻したの?」
背中を揺すられる。『放って置いてくれ』と答える元気も無い。テンションゼロだ。
「悠樹さん。聡は疲れているようだから放って置いてあげたらどうだい?」
そう言って馬鹿を止めてくれたのは、笹倉和馬だった。おお、ありがとう友よ…。
「だって、聡君の代返してあげたら、先生に怒られちゃったんだもん。聡君のせいだよ?」
本当にやったのか、このヴァカは…。
「それより聡、次の時間、外でプールなんだけど…いいのかい? 寝てて」
その言葉に、俺の下心ゲージが上昇し、テンションとコンディションを一気に平常値以上にまで回復させた。
「何してるんだ二人とも、早く行かないと遅れるぜ!?」
いきなり立ち上がり、親指を立てて歯を光らせ言った。嫌な爽やかさだった。
「さ、聡…相変わらず回復早いね…」
と、和馬が半笑で呆れていると、ニヤニヤとした表情の悠樹が俺に近づいてきてた。
「ねー、聡君。私、制服の下に水着着てきたんだけど、見たい?」
「小学生みたいなことすんなよ!! …って、見せるって、ここで脱ぐのか? オマエ」
「…? うん。だって、下、水着だもん」
「いや、それは分かってるんだが、脱ぐという過程の持つ意味が重要なんであって…なぁ、和馬?」
「そうだね…確かにけっこう刺激的だよね」
俺達が脱ぐという行為の有り難味について考えている間に、既にスカートを下ろし終えている悠樹。
「なな、オマエ!! ちょっとは恥らえ!!」
「何で? だって水着だよ?」
着ているのが水着ならジロジロ見られても平気なんか、コイツは…。
「たしかに、恥じらいが混じった方が雰囲気が出るかもね」
和馬の意見は的を得ていたが、俺の言ってるのはそうじゃなくて、悠樹の羞恥心のことなんだが…。
和馬の言った事を聞いていたのかいないのか、悠樹は上もさっさと脱いでしまった。