非線型蒲公英-12
現在の時刻は八時十六分。ちなみに、二葉高校の朝のHRの開始時刻は八時三十分。かなり際どい時刻にあって、妃依の部屋の五人は未だに全員寝ていた。
十分後。八時二十六分。動き無し。
さらに十分後。遅刻決定の八時三十六分。ようやく二度寝していた聡が目を覚ました。
「うー…なんだよ、まだ誰も起きてないのかよ…朝弱いな…みんな」
と、さりげなく時計を見て、固まり、我の目を疑った。
「…えー、と、おかしいなぁ、あれ? はは、もしかして、既に遅刻決定?」
ギクシャクと首を巡らす。四人は熟睡しているようだ。(司は永眠しているように見えるが)
ぴたりと妃依のところで目を止める。現状を忘れ、かわいい寝顔に一瞬見入ってしまった。
「…うむ…いい…じゃないッ!! そうじゃない!! ひよちゃん起きて!!」
流石に傍で大声を出されて、妃依も目が覚めた。
「…なんですか、朝から騒々しい…」
「遅刻してる!!」
時計を指差す聡。
「…あ、ほんとだ」
「『…あ、ほんとだ』って、そんなあっさり…」
「…私、出席はしている方なんで、一回や二回くらいなら別に」
「俺はけっこうヤバイんですけど…」
バターン!!
「な、何だ!?」
いきなりの音に驚き、後ろを振り向くと、香奈と美咲が倒れていた。
「おい、大丈夫か、お前ら…」
「んん、朝か」
「ふぁ、おはよー」
「顔面打ってたぞ、大丈夫なのか?」
「慣れている」
「そー、へーきへーき」
香奈の眼鏡はあれだけの衝撃に関わらず、ヒビ一つ入っておらず、『眼鏡って意外と丈夫なんだな』と、関心した。どうでもいいことだが。
「あ、そんな事より、遅刻してるぞ、俺達」
一応、伝える。
「心配ない、私は風紀委員だからな、記録の改ざんなどはお手の物だ」
「いや、駄目だろ…」
「大丈夫でしょー、それに、さとっちにはユウちゃんがいるからネ」
「は? 悠樹がどうしたって?」
「きっと、代返してくれるよー?」
「ばれるだろ!!」
確かにやりかねないがな、とは思ったが。
「ん、ツカサが死んでるぞ?」
「あー、ホントだ」
やっと異常に気が付く二人。
「遊佐間を襲って反撃を受けたのか?」
「ありうるー!!」
「ち、が…」
ぼそっとした声が聞こえてくる。決死のつっこみだ。
「ひよちゃん、だろ? やったのは」
「…はい、そうですけど」
「何で?」
「…痴漢行為を受けたので」
「そうか、何したのか知らんが、勇者だな…司」
ほっとくのも可哀そうになってきたので、司を立たせてやった。
「大丈夫か? 色々と凄い方向に曲がってるみたいだけど、一人で立てるか?」
「だ…だいじょ…ぶです」
「はぁ、ホントか?」
聡が手を放すとまたバタリと倒れてしまう。
「駄目だなこりゃ…」
「ツカサなら私が運ぼう。ここからならば、学校まで五分とかからないからな」
「は? 運ぶって…確かにお前なら背負えない事はないだろうけどな…」
ここで、まがりなりにも“女の子”に背負わせるのは男としてどうだろうか。
「やっぱ、俺が背負ってくから」
「クク…そうか、ありがとう。優しい聡君」
気が付いた。はめられた。このアマ…。
「く、くそ…。まあいいや、行くぞ、あー、畜生!」
吹っ切れたように司を背負い、カバンを引っつかみ、早々に部屋から出る。
「あは、成功しましたなー」
「後は、このデジカメに収めるだけだ…クク」
やたら黒紫なオーラを出している二人に、準備をしていた妃依は物怖じした。
「…何をするつもりなんですか、それで」
「当然、撮って素材にするのだ」
「今度の本にそういうシーン入れようと思ったんだけどネ、なかなか上手く描けなくってー」
「…は、はぁ。程々にどうぞ…」
いまいち意味は図りかねたが、よからぬ事には違いない。だからといって関わるのも気が引けたので、さっさと出かける事を二人に促し、聡を心の中で励ました。