やっぱすっきゃねん!VP-9
翌朝。青葉中グランド。
整列した部員の前に立つ、永井と葛城。
本日から準々決勝。
事前に知る相手チームのデータを、今一度頭に叩き込むため、ブリーフィングに余念がない。
「話は以上だが…」
ブリーフィングを終えた永井は、紙面から顔を上げると、視線をひとりの選手に向けた。
「佳代。肩の具合はどうだ?」
昨日の連絡で状態は把握していた。が、“ある決断”のために、今一度、訊いておきたかったのだ。
「あの…」
口ごもる佳代。
「あの…診断じゃ、かなり良いそうです。…す、すぐに戻れるだろうって」
何故か、事実を隠してしまう。報告を聞き、永井は表情を緩める──迷いは消えた。
「じゃあ、大丈夫かもしれんな」
佳代は、硬い表情で俯いてしまった。そんな変化に葛城は気づいた。
「では、本日のメンバーを発表する」
永井がメンバー表を読み上げる。
「…5番加賀、6番稲富、7番秋川…」
その間も、佳代は顔を上げようとしない。
(どうしよう…あんな嘘云っちゃって)
このまま、何もせずに終わるのはイヤだという思いが、嘘をつかせた。
永井の読み上げが、レギュラーから控え選手に移った時、彼女は信じられない言葉を聞いた。
「…16番澤田」
(えっ?)
仰天するような選出に、周りが一気に騒ぎだす。
「ど…どういう事ですか?監督…」
佳代にも無謀とも思える采配。永井の真意を問い質そうとする声は、消え入りそうだった。
「静かにしろ!」
ざわめきが止んだ。永井が思いを口にした。
「藤野コーチと相談した時は、お前をベンチ入りから外そうと決めていた…」
佳代は思わず、唾をのむ。
「しかし、試合から遠ざけてしまっては勘が鈍る。だから、メンバーに入れる事にした」
「ちょっと待って下さい。じゃあ、わたしはその為だけに?」
大会は大詰めを迎えて、ひとりでも多く戦力が必要なのに。まして、このチャンスにベンチ入りを願う者もいるはずだ。
彼らへのチャンスも、みすみす潰すのか。
「そんな…わたしは、試合を見るためだけにベンチに入るんですか?」
永井は頷いた。
「チームが勝ち進むには、必要と判断した。以上だ──」
その顔には、ある種の決意が浮かんでいた。
藤野と永井。相反する思惑に、佳代の胸中は複雑に揺れていた。