やっぱすっきゃねん!VP-6
「お〜い!」
黙々とバットを振る修に声がかかる。手を止めてそちらを見ると、直也の姿があった。
明日からの準々決勝。
レギュラー組である25名は軽い調整だけで帰宅するのだが、1、2年生は、これからが練習本番だ。
「直也さん、お疲れ様です!」
修は帽子を取って頭を下げた。直也はゆっくりと近づいた。
「ところで…その…どうなんだ?」
「どうなんだって?」
修は解らなかった──なんとも云い難そうに訊く、直也の想いが。
「だ〜から!おまえの姉ちゃんだよッ」
直也は、修の鈍さに苛立ちを感じてしまい、つい、強い口調になってしまった。
「なんだ!姉ちゃんの事ですか」
ようやく理解した修。
「今朝は痛みも無くなって、バンザイまでしてましたよ」
「ほ、本当か!?」
思わず、胸が高鳴った直也。修の言葉通りなら、案外、復帰も早いかもしれないと思えたからだ。
しかし、次の言葉が直也を現実に引き戻す。
「でも、ボクが早く戻れるんじゃないって云ったら、母さんが“最終的には、診断結果をふまえた上で監督が判断するんでしょ!”って怒られちゃって」
しごくもっともな事だっだ。
「確かにそうだな」
復帰を強く望んではいるが、いかんせん大会は残り3日。あの状況から考えれば、間に合うとは思えない。
「じゃあ、頑張れよ」
「お疲れ様です!」
直也は、心の中にある気持ちをしまい込み、グランドを後にした。
夕方。
部活を終えた修は、自宅に帰り着いた。そして、玄関ドアを開けた途端、その異様さに不可解さを表す。リビングからは、カン高い声が賑やかしく聞こえて来たからだ。
(な、なんだ?姉ちゃんか)
いつもなら、キッチンから母親と姉の声が時折、聞こえるくらいなのに、今日はひっきりなしにリビングから漏れてくる。
(まさか…母さんと喧嘩してるんじゃ)
修は玄関をそっと上がると、忍び足でリビングに近寄ってみた。ガラス戸から垣間見えたのは、姉を取り囲む女の子逹の姿だった。
「違うって!ここに補助線を引いて」
「そ、そんな。ガミガミ云わなくっても」
「尚ちゃんも、佳代ちゃんのために云ってくれてるのよ」
どうやら、姉が友人逹から責められてるらしい。修は、そっとリビング前を離れた。
キッチンに行くと、加奈が夕食の準備をしていた。