やっぱすっきゃねん!VP-4
最寄りのバス停で降りた佳代は、徒歩で自宅へ向かった。腕時計に目をやると、時刻は11時を示していた。
「…今頃、皆んなは練習中か」
皆は、明日からの準々決勝にむけて調整している。
(なのにわたしは…)
どうしようもない焦燥感と罪悪感。
──あなたが治るまで、わたし逹は負けない。
葛城の言葉が虚しく響く。
信じたい思いはあるが、青葉中が全国大会に出た事は一度もない。どうしても懐疑的になってしまう。
佳代は、重い足取りのまま玄関を開けた。
「ただいま〜」
抑揚の無い声で中に入ると、誰も居ないはずのリビングのドアが勢いよく開いた。
「ひっ!」
思いもしない出来事に、身構える佳代。その目に映ったのは、尚美と有理だった。
「おっかえり〜!佳代」
「な…なんで?」
目の前に現れた友人の存在。佳代は、事態を把握しかねていた。
「わたし逹ね、佳代ちゃんを誘いに来たの。そしたらお母さんが“上がって待ってなさい”って」
「な、なあんだ…」
有理の話しに、佳代はようやく状況を呑み込んだ。
3人はリビングに集まった。しばらくは、他愛ない話に花を咲かせていたが、やがてそれも途絶えてしまった。
「…あのね」
沈黙を破ったのは有理だった。
「肩…どう?」
訊かれた佳代は、一瞬、俯いたが、すぐに顔を有理に向けた。
「なんで?知ってるの」
明らかに驚いた表情の佳代。対して有理は、あくまで慈愛に満ちた顔のままだ。
「昨日の試合観ててね。ただ事じゃないと思って。後は、人づてに聞いたの」
「そう…」
俯く佳代。そこに、尚美が割って入る。
「わたしが藤野さんに聞いたの。アンタの怪我の状況を。
そしたら今日は休みになってるって云われたから、遊びに来たのよ」
話し終えた尚美の目は、企みを宿していた。有理も同様だった。
そんな2人に、佳代は薄い笑いを返す。
「…気持ちはありがたいけど、わたし、そんな気分じゃ…」
友達だが、乗り気になれない。そんな心模様を、有理は気づいた。
「佳代ちゃんが辛いのは知ってる。だからこそ、わたし逹を使ってよ!」
有理の心情。
3人の中では1番冷静なのに、初めて聞かされた強い願いだった。
友達の想いに触れ、佳代は頭を垂れた。