やっぱすっきゃねん!VP-3
「こりゃ…驚いたな…」
病院の診察室。昨日撮ったMRI画像と、触診の異なりに担当医師は驚きを隠せなかった。
「驚いたって、何がですか?」
佳代は、医師の顔を不安気に見つめている。
「ほら、ここ見てごらん」
医師は画像を指差した。
「昨日撮った画像じゃ、肩関節が軽い脱臼で炎症を起こしてるんだ。滑包液が分泌して、関節の隙間が大きくなっている」
そして、目を丸くしたまま続きを話し出す。
「でも、今の触診では炎症が治まっていて、関節の隙間も正常に近いんだが…普通じゃ考えられない」
医師の言葉に、今度は佳代の方が興奮気味になった。
「じ、じゃあ!練習出来るんですねッ」
今朝の出来事で、一縷の望みだったのが、みるみる現実味を帯てきたと佳代には思えた。
しかし、医師は、いつもの冷静な表情になると、彼女を見つめたまま「それは無理だね」と云った。
「いくら関節の隙間が正常でも、それですぐ投げられるものじゃない。普通なら炎症が治まるまで、1週間はかかるんだよ」
厳しい診断結果に、佳代は従うしかなかった。
「あ〜あ…」
薬局でもらった薬を見て、憂鬱な気分になった。
「…結局、わたしは試合に出られないのか」
俯いた顔は、辛辣さを映していた。
医師の診断は1週間の安静、日常生活の動作以外は禁止。これでは、大会は終わっている。
「まただ…」
佳代は、病院を後にする道すがら天を仰いだ。こうしないと涙がこぼれそうだから。
1年前もそうだった。勝てた試合を、自分のミスで落とした。
地区予選でも大した活躍も出来ずに、永井や葛城の期待を裏切った。
そして、県大会を迎えて、初めて理想のピッチングが出来たのに…。
「また…チームの役に立てない」
思うようにいかない運命を、佳代は呪った。
佳代が病院に出かけて1時間ほど経った頃、澤田家のチャイムが鳴った。
「あの娘ったら、やけに早いわね」
家事を済ませ、出勤準備に余念のない加奈は、慌てて玄関ドアのロックを解いた。
「ちょうど良かったわ!わたし、出かけるから…」
そこまで云って加奈は口ごもった。玄関前に居たのは、娘ではなかった。