やっぱすっきゃねん!VP-2
「昨日はあんなに痛がってたのに…もしかして姉ちゃん?明日やれるんじゃない」
「分かんないけど、ひょっとしたら…」
弟の“望み”に、まんざらでもない顔で応える佳代。だが、そんな思いを打ち消すような厳しい声が耳に響いた。
「それは、診断結果から監督が決める事でしょう。さっさとシャワー浴びて来なさい!」
「は〜い」
母親の声に、佳代はちょっと身をすくませてからバスルームへ戻って行った。
「アンタもよ、修。変に佳代を焚き付けないの」
「でもさ、姉ちゃんだって投げたいはずなんだよ」
弟としての切望。
そんな思いに対して、加奈はさらに厳しい顔になった。
「中途半端な状態で復帰すると、全力でプレイ出来ないし、無意識に故障箇所を庇ったあげく、他の箇所にこれまで以上の負担をかけるのよ」
言葉は途切れない。
「最初は肩だけだったのが、肘にきて、やがて膝にってね。わたしは佳代に、そんな目に遇わせたくないの。アンタはどうなの?」
そんなマイナス・イメージを聞かされては、修は反論出来るハズもない。
「わ、わかったよ…」
加奈から視線を外し、気まずさを隠すようにリビングへと消えてしまった。
2人のやり取りを黙って聞いていた健司が、出来上がった朝食をダイニングに並べながら加奈を見た。
「君が自分の話をするなんて、思いもよらなかったよ」
加奈の頬が、わずかに赤らんだ。
「仕方ないでしょう。納得しないんだから」
「…あの頃は、痛々しかったものなぁ」
感慨深げに喋る健司に、あの日が甦る。肩、肘、両腿にテーピングを施してコートに立つ加奈の姿が。
「治療に専念してれば、もっとやれたのに、君は拒否してたな」
苦い昔話。加奈は思わず、声が上ずった。
「な〜に云ってんの!あの程度でつぶれるなら、その程度の才能なのよ」
「でもさ…」
「もっと厳しい状況でも、故障しないプレイヤーもいるのよ。逆にわたしは、自分の才能を見限った思いだったわ」
サバサバとした口調でそう云うと、今度は慈しみを湛えた眼を健司に向けた。
「だからこそ、わたしは子供逹にそんな真似させない」
「加奈…」
「二人には、最高の状態でプレイしてもらいたいの」