やっぱすっきゃねん!VP-16
11時。球場を後したバスは、学校に到着した。
「いいか!レギュラー組は全員休みにする。その他は、いつもの練習だ」
永井の号令の元、選手逹はバスを降りた。
野球部の雨天練習。校舎の廊下や階段、教室などを利用したランニングや、体幹トレーニング、素振りなど。
やるべき事を伝えられて、皆が校舎に向かおうとした時、永井の前に数人の選手が立ちはだかる。
「監督!自分達も参加させて下さい」
そこに居たのはレギュラー組全員の姿があった。
「何故、やりたいんだ?」
永井の問いかけに、その中のひとり、加賀が一歩前に出た。
「明日の試合を前に休むなんて出来てません。やらせて下さい!」
他の者も、心情を吐露した。
永井は内心、嬉しかった。チームのために、今以上に自分を追い込みたいと直訴する選手がいることに。
しかし、指導者は時に、非情にならなければならない。
「残念だがダメだ」
「何故ですか!?」
なおも、食い下がろうとする者達ひとり々の目を見て、諭すように云った。
「地区予選からこっち、お前達は試合と練習を休みなく繰り返していた」
「だからって…」
「だから、休養を取って明日からの2連戦、少しでも良い状態で臨めるようにするのもお前達の務めだ」
この一言で、レギュラー組全員が諦めた。
残った野球部の連中が校舎内での練習にいそしんでいる頃、学校の駐車場に、1台の白い営業車が止まった。
藤野一哉だった。
いつもは、ユニフォーム姿で現れる一哉だが、この日は違った。スーツ姿だった。
「なんとか、間に合ったかな」
一哉は練習中の部員に目もくれず、校舎の中を急ぐ。そして、職員室の前で立ち止まった。
「失礼します」
ゆっくりと扉を開けた。閑散とした室内の奥、パーティションの向こうからこちらを覗く姿は、永井と葛城だった。
「お忙しい中、失礼します」
笑顔で2人に歩み寄る一哉。一方、永井と葛城は、驚きの表情だ。
「ど、どうしたんです?藤野さん。そんな格好で」
「仕事の途中でして」
「ユニフォームもいいけど、スーツ姿も結構、様になってますね」
いつもなら、2人との談笑も苦にならない一哉だが、この日は少し焦っていた。