やっぱすっきゃねん!VP-15
「あの娘、試合に出るつもりかしら?」
「あの状況じゃ、そうかもね」
聞かされた言葉に、加奈は気持ちが収まらなくなった。
「あんのバカ娘は!」
「加奈!」
佳代の元に行こうとする加奈を健司は止めた。珍しく大きな声で。
加奈が怖い顔で睨む。
「あの娘はね、解ってないの!それで無理すれば、身体を壊すってことをッ」
佳代が犯そうとする間違いを、止めねばとする母親の気持ち。しかし、健司は、加奈の両肩を掴んだ。
「じゃあ、君は何故、あの時止めなかった?最初の故障が判った時、何故止めなかった」
加奈は思い浮かべた。最初に痛めたのは18歳、大学1年の時に肘を痛めた。
彼女は、痛み止めやアイシングでごまかしながら、数々の試合をこなした。
しかし、3年になったある日、今度は肩を痛めた。
そして4年になった頃には、腰と膝にも影響が広がり、加奈はレギュラーからも外された。
「君と出逢った時、何故、肩の治療に専念しなかったんだ?」
問い質す健司の顔は、険しかった。
「あの時は、わたしは国体選出されてたのよ。辞退なんて無理だったのは、あなたも知ってるじゃない」
「そうだった。それが解ってるなら、何故、佳代に意見出来るんだ?」
健司の言葉を聞いて、加奈は何も云えなくなった。
「加奈、佳代はもう、ひとりの人間だよ」
俯き加減だった加奈が、顔を上げた。
「自分の思いでやろうとしてるんだ。たとえどうなっても、本人も納得するはずだよ」
健司はそう云うと、にっこりと笑った。
朝10時。〇〇市営球場。
青葉中野球部一同は、バスの中で焦燥の時間を過ごしていた。
降りしきる雨は、窓ガラスを濡らし、いっこうに止む気配もない。
「早く決めてくれないかなあ…」
外を眺める佳代は、うらめし気に独り言を呟く。
「まったくだ」
となりに座る秋川も、憂鬱そうだ。
この雨脚と予測される天気変化から、すぐに中止と思われた。が、大会本部は、なかなか結論をだせずに今に至っている。
おかげで、青葉中を含む4つの中学が、球場前で待ちぼうけを食らってた。
「はあ…」
ため息が漏れる。バス内が澱んだ雰囲気に包まれようとした時、
「あ…監督とコーチ、出て来たぞ」
永井と葛城が、球場出入口から現れた。皆が球場側の窓ガラスにへばり付く。
永井は、バスに乗り込むなり云った。
「今日は中止だ!」
その途端、選手からは嘆きの声が上がった。勢いの有るうちに試合をやりたかったのだろう。
(良かった。これで1日時間が稼げる)
しかし、佳代はそう考えていない。この1日が、望みを現実にしてくれるかも知れないと思えた。