やっぱすっきゃねん!VP-14
夜。一哉は、自宅電話の受話器を持って何やら話していた。
「そうだ。あと二つ勝てば、久々に全国に行くんだ。オレ逹以来のな」
どうやら、受話器の向こうは一哉の昔の仲間のようだ。
「そんな事になってみろ、末代までの恥だぞ!」
普段は見せない感情混じりの声に、相手はたじろいだのだろう。
「分かったけど…どうしろってんだ?」
「お前に寄付を頼みたい。子供逹を行かせてやってくれ」
「分かった…で?いつまで要るんだ」
「期日は10日後。振込先は、明日、メールで知らせるから」
そうして、電話は切られた。一哉は腕時計を見た。
「ひとり当り5分か。この時間からだと、30人が限度だな」
一哉はひとり、食事も忘れて、次の相手に連絡した。
翌朝。佳代は目覚ましに起こされた。ベッドから這い出て、伸びをすると、外から水の打つ音がかすかに聞こえた。
「何?雨」
慌ててカーテンを引くと、鈍色の空からかなりの雨粒が辺りを濡らしていた。
(これって、もしかして…)
佳代は急いで階下へ降りて、キッチンに向かった。そこには、健司と加奈が居た。
「父さん!新聞は?」
娘のえらい剣幕に、健司は少し驚いた。
「いや…まだまだよ」
佳代は、一目散に玄関を目指す。ドアの郵便受けには、未だ新聞が入っていた。
素足で玄関口に降りて新聞を取ると、キッチンのテーブルで広げた。
「やっぱり!」
見つめていたのは、天気予報欄だった。南西から接近する台風から伸びる雲の帯が、佳代の住む地域を覆っていた。
「どうしたんだ?」
奇声を挙げた佳代に、健司が近づいた。そこで、娘が除き込む新聞に目を向け、事情を把握した。
「今日の天気は好転しそうにないからね。中止かもしれないな」
その途端、佳代は歓喜の声を挙げた。
「父さん、母さん!ひょっとしたら、やれるかもしれない」
この上ない笑顔を2人に向けると、貼り付けた馬肉をゴミ箱に捨ててキッチンを後にした。
娘の居なくなったキッチンで、健司と加奈は顔を見合せる。