やっぱすっきゃねん!VP-13
「野球部の躍進です。まさか、全国大会にまで…」
「ちょっと待って下さい!」
永井が声を荒げる。が、白石はそれを遮った。
「だってそうでしょう?ここ10年で県大会進出は4度。昨年に至っては地区大会敗退の野球部に、大幅な予算はつけられませんよ」
白石の声は震えていた。彼も同じなのだ。子供逹の夢を、大人の現実で奪ってしまう事を情けなく思っているのだ。
「町の教育委員会への、臨時予算申請は?」
葛城の意見に、白石は首を横に振った。
「すでに申請しました。無理でしたよ」
これで、全ての道は塞がれた。
「校長先生…」
再び葛城が訊いた。
「野球部が全国大会に出場するとして、どの程度の運営費を回して頂けますか?」
「おおよそですが、100万円位かと…」
一部始終を聞かされ、一哉は頭の中で考えた。
(今年の全国大会は、沖縄の宜野湾市だったな。と、すれば、選手と監督、コーチでひとり当り5万円余りか。交通費にしかならんな)
しばらく考えていたが、永井に夜には連絡すると云って携帯を切った。
「とりあえず、目の前の事を終らせてからだ」
一哉はそう呟くと、再び仕事にかかり出した。
夕食前の一時、佳代はシャワーを浴びてリビングに居た。
馬肉を肩に巻いて、痛み止めを飲んだ。夜中に貼り替えれば、それでしまいだ。
(なんだかなあ…)
感覚から、昨日より今日の方が、肩の具合は良くなっているのは分かる。佳代にすれば、喜ばしい事だ。すぐにでもリハビリをしたい気持ちはあるが、今一つ踏み切れない。
急いだ挙げ句、再び痛めれば、もう次は無い。
焦りと恐怖心が、心で交錯する。
(ただ、このままじゃ…)
試合中、仲間の闘う姿を見るのはベンチ入りを外されて以来だ。しかも、今度は目の前で見ている。確かに、観客席とベンチでは雰囲気が違う。何より、相手の息遣いまで感じ取れる。
だが、佳代にとっては針の筵に思えた。何も出来ずにベンチに座っている事に、何度も逃げ出したい衝動に駆られた。
彼女の中で、何かが芽生え始めていた。