やっぱすっきゃねん!VP-11
準々決勝第2試合。青葉中は3-1で勝利した。
先発の稲森は、河浦中を8回まで1点に抑え、最後は橋本で締めくくった。
しかし、攻撃では相手のエラー絡みの得点ばかりで、タイムリーは乾の1本だけだった。
チームとしては消化不良な試合。当然、解散後は部室での反省会となった。
「先ずは初回の乾からだ。何故、初球から打った?」
キャプテン達也がチェックリストに目を通す。チェックリストには、出場メンバー全員が自由に書き込める──気づいたミスを。
「…そりゃ、その…なんだ」
バツの悪そうな乾。
「つまり、いい球だから手を出したってんだろ?」
「…ああ、そうだよ。でも、ヒットになったからいいじゃないか」
「そういう事じゃないだろ」
達也の醒めた眼が乾に飛んだ。
「お前も初めて1番任されたわけじゃないだろ。初回は球数放らせて、相手の投球を見極めるのがセオリーのはずだろ?」
厳しい議論が目の前で続く中、佳代は別の事を考えていた。
試合中に見せた稲森の言葉が、棘のように刺さる。昨日までは、周りの暖かさに嬉しくなったが、今日、まのあたりにした状況には戸惑いを覚えていたのだ。
連投をも辞さない2人のエース。チームの流れは、確実に厳しい方を向いている。それは、藤野が進めてきた指導方針とは、明らかに違う。
(どうしたらいいんだろう、わたし…)
佳代は思わず、ため息を吐いた。
選手逹が部室中に隠っている同時刻。永井と葛城は、いつもの場所で互いを労っていた。
「失礼しますよ」
扉が開いて入って来たのは、校長の白石だった。
「これは校長!」
2人は、慌てて立ち上がった。白石が彼らの前に現れるなぞ、ついぞ、無かったからだ。
「今日も勝利されたそうですね永井さん。おめでとうございます」
白石が頭を下げた。永井も葛城も驚く──これも、初めての事だったからだ。
「いよいよ全国大会が見えて来ましたね!」
白石の嬉しそうな話し出しに、2人の気持ちが緩んだ。
「子供逹の努力の賜物です」
「そうでしょう、そうでしょう」
永井の言葉に、白石は何度も頷いた。