記憶-9
「……わかっている。本当にすまない事をした」
ラインハルト兄様はソファーに座ったまま深々と頭を下げる。
「理由を……聞かせて下さい」
しばしの沈黙の後、意を決したように兄は顔をあげた。
「キアルリア。私と結婚してくれないか」
ぶはっ
横でお茶を飲んでいたギルフォード兄様が吹き出す。
「…げほ…続けてくれ」
ギルフォード兄様が胸を叩きながら先を促す。
「兄上、答えになってません。それに兄上は私を愛してはいないでしょう?」
言われた言葉に驚いた兄が目を見開く。
「それぐらいはわかります。ですから、なぜ愛してもいない私を無理矢理抱いたのか……そして、なぜ今、結婚してくれなどと戯れ言を言うのか聞いているのです」
どうにも会話が成り立たず、イライラして言葉がキツくなりだした。
「非常に言いにくい事なのだが……」
……沈黙。
「やりにくい事ヤっといて、今更何をおっしゃるのですか?さっさと言わないと、その首へし折りますよ?」
2人の兄が自分の言葉に驚いているのが分かった……が、そんな事は気にならない。
怯えたラインハルト兄様がやっと口を開いた。
「実は私は……男性が好きなのだ」
「「は?」」
ギルフォード兄様と自分の声が重なる。
「しかし、結婚して世継ぎは残さねばならん……キアルリアならば適任だと思ったのだ」
女性として愛する事は出来ないが、家族としては既に愛しているので問題はない。
「酔っていたのもあるにはある……が、どうも思いついたらすぐ行動したくなってしまって……キアルリアに話しても同意を得るのは難しいだろうし、既成事実を作ったほうが早いかと……」
で、無理矢理抱くためにお香を使ったと……確かに護衛を務める自分はラインハルト兄様よりはるかに強い。
「じゃあ……なにか?世継ぎを作るためだけにオレを利用したのか?」
ゆらりと立ち上がり、兄を睨みつけた。
「ふっざけんなあ!!」
ガンッ
足を上げて思いっきりテーブルを踏みつける。
2人の兄は、自分のあまりの変わりように背筋を伸ばした。
「ああ!オレだって王族だ!必要とあらば躯ぐらいいくらでも売ってやるさ!だがな!オレの意志でやるんだ!国王だかなんだか知らねぇが自分の性癖もまともに受け入れられねぇてめぇが勝手に決めてんじゃねぇよ!」
グワッシャーン
足でテーブルを蹴り上げひっくり返す。
はぁはぁと自分の荒い息遣いだけが部屋に響く。
こんなどうでもいい事で、なぜ自分があそこまで壊れなければならなかったのかと思うとはらわたが煮えくり返る。