記憶-15
――――――――
「それからゼビアまで……2年かかったなあ」
城を出た後は乗合馬車も使ったが、 路銀を稼ぐためにアルバイトしたりもしたし、出会った冒険者としばらく行動を共にした事もある。
キャラは鏡の前に座って、編み込まれた髪を丁寧にほどきながら話している。
ベットに寝転び、鏡越しにキャラの表情を見ていたアースは不機嫌だ。
「んだよ……ギルフォード兄ちゃんとは相思相愛じゃねぇか……」
他の話の時は淡々と話してたくせに、ギルフォードとの話の時はうっとりとした表情だったのだ。
憮然とした声にキャラが振り向くと、アースはいじけるように枕を抱いて背中を向けていた。
「なんだ、妬いてるのか?」
「妬いてるよ」
からかったのに素直に返事をされて、キャラは目を丸くする。
妬いている、というよりギルフォードに負けたような気がしたのだ。
多分、ギルフォードはキャラを愛していたのだろう。
しかし、キャラの気持ちを尊重し、無理矢理引き止めたりせずに見守る方を選んだ。
自分にそれが出来るのか?と問われれば……絶対に無理。
「あー…くそっ」
アースは枕に顔をうずめて、もやもやする気持ちをどうにかしようと悶える。
「やっぱ後悔したじゃねぇか」
「おお!後悔したさ!悪いか!!」
別に悪くはないがなんだか居心地が悪い。
よくよく考えてみればギルフォードとの事は別に言わなくても良かったのだ。
つい懐かしさにかられて話してしまった。
反省したキャラは小さくため息をついてアースの横に座った。
「アース?」
声をかけるとアースがゆるりと振り向いたので、すかさずキスをする。
「あんたが一番好きだよ?」
可愛く首を傾げて言うと、アースは顔を赤くして固まった。
「ね?」
キャラが頬を撫でると、アースはコクコク頷く。
にっこりと笑ったキャラはもう一度キスをして、風呂場へと向かう。
(ふ……他愛もねぇ)
男を手玉にとる術もファンの姫としてしっかり習得している。
しかし、相手がアースだという事を失念していた。
油断したキャラはこの後、風呂場に乱入したアースにいやというほど鳴かされる事になる……。